文:白鳥幸一(トレタマーケティング担当)
システム導入プロセスでの現場との向き合い方が明らかになった前回。最終回となる今回は、各社が今後注力したい重要課題について詳しく見ていきます。興味深いことに、同じ飲食業界でありながら、会社の成長ステージや業態によって課題は見事に分かれていました。
私は普段、様々な規模や業態の飲食店を訪問していますが、今回の座談会では、その多様性を改めて実感することができました。
見事にバラバラな「これからの重要課題」
座談会で今後の重要課題について聞いてみると、これまでの質問と違って意見が見事に分かれました。集客・マーケティング、省力化・効率化、採用、顧客満足度、仕入れ改善、コストダウン。各社の答えはまさにバラバラでした。
トレタ中村はこの結果を興味深く分析します。各社の状況や社風、文化、業績によって課題が大きく異なることの表れなのでしょう。
【成長企業の課題】採用教育がボトルネック
ビリオンフーズさま:人材確保が最大の壁

急成長中のビリオンフーズで、松浦さまが最重要課題として挙げたのは採用教育でした。
飲食店の出店で障害になるのは物件と採用。物件については今のチームでできることは限られているため、採用教育に注力しています。
同社が運営する「日本酒原価酒場」(居酒屋業態)と単価1万円程度の寿司業態は、すでに業態として確立されています。この2つの業態は出店さえできれば大きく失敗することはない状態まで来ているため、会社の成長を考えたときに採用が最大のキーになるのです。
採用管理の理想と厳しい現実
ビリオンフーズが抱える採用の課題は、多くの飲食企業に共通するものでした。
松浦さまは理想的な仕組みについて語ります。indeed、バイトルなど複数の媒体から応募が来るほか、自社LPからの応募もあります。これらを一元管理して、媒体ごとの離脱率や獲得単価を分析できるデータ基盤の構築が必要です。
しかし現実は厳しいものです。渡辺さまが現場の実情を補足しました。店長が面接を行うため、応募者が当日来なかったり、採用可否の情報管理が徹底されておらず、わけがわからない状態になっています。正しく全体を把握できていません。
他社の採用システム事情
スプラウトインベストメントさま:大学生アルバイト面接を完全自動化
25店舗を運営するスプラウトインベストメントでは、アルバイトの面接システムをほぼ自動化し、自動で採否が決まると白石さまは語ります。ただし社員採用は依然としてアナログです。
バルニバービさま:採用業務の外部委託
バルニバービウィルワークス山口さまは、社員採用を専門会社に一括委託し、月1回のペースでデータ化してもらっていると紹介しました。採用率、媒体効果、店舗・業態・職種別の違いなど、全てデータ化しています。
FTG Companyさま:業態別の採用基準
FTG Company小池さまは、業態によって求める人材が全く違うという課題を語りました。
大阪ぎょうざ専門店よしこは代表のお母さまの餃子がモデルなので、親しみやすいおばちゃんを求めています。一方で焼肉ふたごはイケイケどんどんのムキムキマッチョマンを求めており、40歳以上はお断り。サラダ業態はすっきりスマートな人を求めています。
このように業態ごとに採用基準が異なるため、統一的な採用システムの導入が困難になっています。
【拡大企業の課題】集客・マーケティングに注力
FTG Companyさま:5か年計画で大幅成長を目指す

FTG Companyの田中さまと小池さまは、揃って「集客・マーケティング」を重要課題として挙げられました。
田中さまによると、今年5か年計画を立てて会社としてもう1段大きくなろうというビジョンが降りてきました。会社のファンを作り、既存のお客さまのロイヤリティを高めていくことが個人的には最も大事だと考えています。
小池さまは現場視点から課題を語ります。これまではふたごというブランドで、東京なら結構お客さまが来てくれていました。しかし15年経って世代が変わった今、数多ある飲食店の中でふたごを選ぶ理由は何なのでしょうか。今までは待っていましたが、本当は迎えに行かなければいけない時代になったのです。
同社は「桁ひとつ多く稼ぐ」という目標を掲げており、既存ブランドの強化と新規事業の両方でマーケティング強化が必要な状況です。
【効率化企業の課題】省力化・効率化で現場負荷軽減
スプラウトインベストメントさま:店長業務の軽減が急務

25店舗を本部3名で運営するスプラウトインベストメントでは、省力化・効率化が最重要課題でした。
まだアナログなところがあり、特に手書きオーダーです。カウンターの店なので、焼いている人がオーダーを取ります。IT化すると価値がなくなる場合もあるので、そこはいいのですが、店長業務が多すぎるので、それを少し減らしてあげたいと白石さまは語ります。
バックオフィスは既に効率化されていますが、現場の省力化はまだ手つかずの状態です。経営方針と現場運営の最適なバランスを見つけることが重要な課題です。
【独自路線企業の課題】成功パターンの形式知化
バルニバービさま:現場で培われた「暗黙知」を「形式知化」に
最もユニークな課題を示したのがバルニバービです。ITシステムコントロール部 部長は、「社員一人ひとりの個性や強み、現場で培ってきた暗黙知を形式知化すること」を最重要課題として挙げました。
同社は、「バッドロケーション戦略」と呼ばれる独自の方針を掲げ、従来のマーケティング手法に過度に依存しない店舗展開を行ってきました。
駅から徒歩20〜30分という立地条件でありながら高い集客を実現している店舗も多く、一般的なセオリーだけでは説明しきれない成功事例が数多く存在します。
こうした成功の背景には、社員個人が現場で磨いてきた暗黙知があります。これらを形式知化し、組織の共有財産とすることで、誰もが再現できる組織の強みに変えていく考えです。
現場重視の課題:仕入れ改善とUX向上

バルニバービウィルワークス山口さま:仕入れ効率化
同じバルニバービでも、現場責任者の山口さまは仕入れ改善を課題として挙げました。会社で一番弱いのは仕入れじゃないかと思っています。業態もバラバラ、立地もバラバラなので、みんなバラバラに仕入れています。
井本さま:顧客満足度向上
モバイルオーダー担当の井本さまは顧客満足度アップを課題としました。モバイルオーダーを通してお客さまの満足度を上げるとしたら、現場でのUIやUXの意識を底上げしていかないといけません。noteなどのプラットフォームを使って、知識を共有していきたいと考えています。
成長ステージ別の課題マップ
座談会の議論を整理すると、飲食企業のIT課題は成長ステージによって明確に分かれることがわかりました。
| 成長期(ビリオンフーズさま) ・課題: 採用教育 ・アプローチ: データ基盤構築、効果測定の仕組み化 拡大期(FTG Companyさま) ・課題: 集客・マーケティング ・アプローチ: 顧客ロイヤリティ向上、新規事業との相乗効果 安定・効率化期(スプラウトインベストメントさま) ・課題: 省力化・効率化 ・アプローチ: 現場負荷軽減、オペレーション最適化 独自路線・差別化期(バルニバービさま) ・課題: 現場に蓄積された暗黙知の共有 ・アプローチ: 個性を形式知化し、より個性を生かすことのできる組織作り |
座談会の成果と参加者の反響

座談会の最後に参加者から感想をいただき、事後アンケートでも高い満足度が確認できました。普段孤独になりがちなIT担当者にとって、横のつながりがいかに重要かが改めて浮き彫りになりました。
参加者からは「各社それぞれステージが違うので、課題感が全然違う」「会社によって大事にしている部分、文化が全然違う」といった声が上がり、同じ業界でも多様性があることへの気づきが感じられました。
業界の未来を拓く4つの方向性
今回の座談会を通じて、飲食業界のIT活用が目指すべき4つの方向性が見えてきました。
| 1. 成長ステージに合わせた戦略的IT投資 急成長期は採用・教育、拡大期は集客・マーケティング、効率化期は省力化といったように、成長ステージに応じた重点分野の設定が重要です。 2. 現場負荷ゼロを目指した徹底的自動化 ビリオンフーズさまの「現場にITをやらせない」方針のように、現場スタッフがITを意識しなくても済むシステム設計の追求が必要です。 3. 業態特性を活かした個別最適化 FTG Companyさまの業態別アプローチのように、画一的なシステム導入ではなく、業態の特性に合わせたカスタマイズが大切です。 4. 暗黙知の言語化と標準化 バルニバービさまが取り組もうとしているように、成功している企業ほど現場に暗黙知が蓄積されています。これを形式知化し、組織全体の知として共有することが、持続的な競争優位につながります。 |
業界連携の必要性

座談会で最も印象的だったのは、参加者全員が他社との情報交換に強い関心を示したことでした。これまで孤軍奮闘してきたIT担当者たちにとって、同じ課題を抱える仲間との出会いは大きな価値がありました。
バルニバービ ISC部長の呼びかけが象徴的でした。トレタのような取り持ってくれる方の協力のもと、貴重な機会を得ることができました。話せるネタはいっぱいあるので、長く続けて深めていきたいです。
飲食業界のIT担当者が抱える課題は、会社の規模、業態、成長ステージによって大きく異なります。採用管理に注力する急成長企業、集客強化を図る拡大企業、効率化を追求する企業、独自路線を言語化したい差別化企業─それぞれが異なる方向を向いています。
しかし、その多様性の中にも共通する志がありました。それは「現場スタッフとお客さまにより良いサービスを提供したい」という想いです。
ハイフンと横棒の15分問答から始まったこの座談会は、最終的に業界全体の未来を考える場となりました。IT担当者の地位向上、現場とのコミュニケーション改善、効果的なシステム導入手法、そして各社の重要課題─これらすべてが、飲食業界のさらなる発展に向けた貴重な知見として共有されました。
4回シリーズを振り返って
「現場との言葉の壁」から始まった本シリーズは、「IT担当者の地位向上」「システム導入の成功要因」「各社の重要課題」まで、飲食業界のIT活用における重要なテーマを網羅することができました。
| 第1回:現場との溝を埋める鍵は「翻訳機能」 ・専門用語の現場言語への変換 ・現場メリットの明確化 ・極限までの自動化 第2回:地位向上には価値の言語化と適正評価が必要 ・IT統制の観点からの経営層アプローチ ・市場価値に見合った給与体系の確立 ・専門性と事業理解の両立 第3回:現場を動かすのはKPI連動の説得力 ・「いいからやれ」から「メリット明示」へ ・段階的導入と選択肢の提供 ・継続的なフォローアップ体制 第4回:成長ステージで異なる重要課題への戦略的対応 ・急成長期は採用教育、拡大期は集客強化 ・業態特性に応じた個別最適化 ・業界連携による知見共有 |
参加企業への感謝
最後に、貴重な時間を割いて座談会にご参加いただいた企業の皆さまに心から感謝申し上げます。
・株式会社スプラウトインベストメント(白石紀久さま)
・株式会社バルニバービ(ITシステムコントロール部 部長)
・株式会社バルニバービウィルワークス(山口翼さま、井本彩加さま)
・株式会社ビリオンフーズ(渡辺淳さま、松浦州さま)
・株式会社FTG Company(小池泰人さま、田中祐太さま)
皆さまの率直な課題共有と具体的な解決事例の紹介により、業界全体にとって価値ある知見を得ることができました。
読者の皆さまへ
同じような課題を抱える飲食業界のIT担当者、DX推進担当者、マーケティング担当者の皆さま。一人で悩まず、ぜひ業界の仲間とつながり、一緒に課題解決に取り組みませんか。
飲食業界のDX推進は、決して一社だけでできるものではありません。業界全体で知見を共有し、連携することで、必ず道は開けるはずです。
皆さまと一緒に、飲食業界の明るい未来を創っていきたいと思います。




