本音で語る座談会レポート①

文:白鳥幸一(トレタ マーケティング担当)

渋谷MIYASHITA PARK内のNEW LIGHTで開催された「飲食事業者IT担当者座談会」。飲食店のDX推進を手がけるトレタの主催により、業界を代表する8名のIT担当者が一堂に会しました。

私はトレタでマーケティング担当しており、日頃から全国の飲食店を訪問して現場の生の声をお聞きしています。今回の座談会でも、IT担当者の皆さまの率直なお話から多くの学びを得ることができました。

参加者の顔ぶれを見ると、飲食業界のIT事情の多様性がよくわかります。「食から始まる日本創再生」を掲げ、近年は淡路や出雲などでの取り組みが注目を集めるバルニバービさまからはITシステムコントロール部長 (以後ISC部長)。その子会社バルニバービウィルワークスさまからは取締役の山口翼さまと、同社でモバイルオーダーを担当する井本彩加さま。人気焼肉店などを100店舗以上展開するFTG Companyさまからはマーケティング部の小池泰人さまと田中祐太さま。「日本酒原価酒蔵」などを中心に急成長中のビリオンフーズさまからは執行役員の渡辺淳さまとデジタル戦略本部の松浦州さま。そして「イカセンター」などを中心に25店舗を運営するスプラウトインベストメントさまからは営業サポート部長の白石紀久さまが参加しました。

各社が注力するIT分野の違いが浮き彫りに

座談会では、まず各社のIT重点分野について共有されました。それぞれの会社の規模や業態によって、アプローチが大きく異なることが印象的でした。

現場サポートを重視するバルニバービさま
「現場のコア業務を最大化するために、テクノロジーで支援する」ことを活動方針に掲げています。現在、100店舗以上・約2,100名の現場スタッフを抱える組織において、ITに関する問い合わせは毎日数十件以上にのぼり、対応に日々奔走しています。

顧客体験向上を重視するバルニバービウィルワークスさま
山口さまは「機械に仕事を取られる勘違いにならないよう、現場が楽しめる導入を心がけています」。井本さまは「接客ありきで、モバイルオーダーはお手伝い」でUX改善に注力しています。

効率化・自動化に取り組むスプラウトインベストメントさま
「本部は経理と労務を含め3名。店長がリアルタイムにPLを見れるシステムで競争力向上」と白石さま。仕入れから人件費まで自動管理しています。

業態別のシステム戦略に特徴を持つFTG Companyさま
焼肉は人力重視、餃子はモバイルオーダー、サラダはデリバリー中心と業態で使い分けています。田中さまは「既存事業は現場の声が7割、新規事業はトップダウンで即決」と意思決定の違いを分析しています。

データ統合・分析に積極的に取り組むビリオンフーズさま
「売上POS、勤怠、仕入れ、全てのデータを1か所に集約」と渡辺さま。自社でBI構築し、店舗からPCを撤去してiPadのみにする徹底ぶりです。

「ハイフン」を理解してもらうために15分

座談会で最も印象的だったのが、バルニバービさまの現場とのコミュニケーション事例でした。

メールをスマートフォンに設定したいという問い合わせがあり、まずメールアドレスは「名前ハイフン苗字@~」となりますので、そちらで設定してみてくださいと伝えたところ、「ハイフンって横棒ですよね?」と言われました。「はい、横棒です」と答えたのですが、「横棒を入力しているのに設定ができません」というやり取りが、15分続きました。」

問題の原因は、スマートフォンのキーボード上に「横棒」が、複数あったことでした。ハイフン、半角のハイフン、アンダーバー、長音記号など、現場スタッフが入力していたのは、IT担当者が想定していた「横棒 = ハイフン」ではなく「横棒 = ハイフンではない横棒」だったのです。

このような事象は、業務領域の違いによって生じる「常識のズレ」に起因すると考えています。現場スタッフが悪いわけではなく、それぞれが異なる世界で経験を積んできた結果にすぎません。たとえば、飲食の現場では「コップ」ではなく「グラス」と呼ぶのが一般的であるように、言葉や価値観の違いは自然なことです。

こうした違いを橋渡しするために、飲食企業のIT担当者には“翻訳者”としての役割が求められる。そう実感したと、ISC部長は語っています。

LINE WORKS既読率50%の現実

FTG-Company_小池さま

現場とのコミュニケーション課題は、他社でも共通していました。FTG Companyの小池さまは、社内連絡ツールでの苦労を打ち明けました。

「LINE WORKSで全営業グループに新店オープンの連絡を300人に送っても、2週間経って既読が半分つくかつかないか。既読がついても、開いて即閉じる。理由を聞くと『忙しくて見れない』と言われますが、絶対に見るチャンスはあるはずなんです」

小池さまは現場出身だからこそ、現場の言い訳が見抜けてしまいます。だからこそ、現場スタッフのITツールに対する心理的な壁を解消しようと取り組んでいます。

「電話の方が早い」という現場の論理

現場がデジタルツールを避ける理由について、バルニバービウィルワークス山口さまは現場責任者の立場から説明されました。

「携帯開いて、パソコン開いて、文字を打つより、電話した方が早いんです。すぐ伝わるし確実ですから」

実際、どの会社でも緊急時の連絡手段は電話が中心です。LINEWORKSなどのチャットツールを導入していても、「結局電話」という現場が多いようです。そしてそれはお客さまでも同様です。

「私たちがどんなオンライン予約システムを提供しても、お客さまは絶対に電話してきます。公式サイトやグルメサイトなどに番号を掲載しなくても見つけて電話してくる。だから電話対応は避けられません」と山口さま。

世代を超えた共通課題

興味深いのは、デジタルネイティブ世代の若いスタッフでも、この傾向は変わらないことです。

「若い子は覚えるのは早いし、教えなくてもある程度わかります。でも、最低限の機能しか使わない人の方が多い」と山口さまは指摘されます。

バルニバービ ISC部長も「新しい取り組みに対する抵抗感はそれほどありません。むしろ『まずはやってみよう』という姿勢は、感じ取れます。ただ、実際に試してみた後に、従来の慣れた方法へと戻ってしまうケースも少なくありません。」と同意されています。

現場のリテラシー向上への挑戦と限界

各社のIT担当者は、現場スタッフのITリテラシー向上に向けて様々な取り組みを行っています。しかし、その効果には限界があることも事実です。

バルニバービウィルワークス井本さまは、モバイルオーダー導入時の現場の反応を振り返られました。

「せっかく導入時に店舗でレクチャーしたのに、『使ってないんですか?』ということがありました。接客が強みだから使いたくないという理由もあるでしょうし、単純にやり方がわからないということもあります」

この問題に対して、井本さまは無理強いしない方針なのだそうです。

「やりたくない店舗は、無理してまでやらなくてもいいと思っています。他の店舗で結果が出てきたら、『じゃあやってみようかな』となることを期待しています」

「いいからやれ」vs 丁寧な説明、どちらが正解?

ビリオンフーズ_渡辺さま

現場スタッフに新しいシステムを使ってもらう方法については、各社でアプローチが分かれました。

ビリオンフーズ渡辺さまは、KPIと連動させた説得術を披露されました。

「『いいからやれ』もありますが、KPIに絡める説明も効果的です。モバイルオーダーを入れることで人件費率が1〜2%下がる、KPI達成が楽になる、その分アンケート対応などに時間を使えてお客さま満足度も上がる。『モバイルオーダーやった方が良くないですか?』と言うと、『なるほど、わかりました』となります」

つまり、現場スタッフにとってのメリットを明確に示すことで、導入への抵抗を減らされているのです。

ビリオンフーズさまが実現した「ITゼロ現場」

興味深い取り組みを見せたのがビリオンフーズさまでした。同社は積極的にITを活用したデータ経営を追求する一方で「現場にはITを触らせない」という徹底した方針を貫かれています。

「基本的には、ITに関わることを現場にやらせないという主義なんです。いかにして触らせないか、ひたすら分かりやすくするかということだけを考えています」と渡辺さま。

その結果、店舗からパソコンを完全に撤去し、iPadのみの環境を実現しました。納品書の入力なども全て自動化し、現場スタッフは画面で数字を確認するだけで済むようになったそうです。

「とにかくお客さまとスタッフに向き合うのが、店舗責任者や社員の仕事。それは私たちにはできない彼らのバリューなので、それに全振りしてもらっています」

この取り組みの効果は絶大で、IT関連の問い合わせは激減したということです。

現場変革より「翻訳機能」の重要性

バルニバービ_ISC部長

座談会を通じて見えてきたのは、現場のITリテラシーを無理に上げようとするより、IT担当者が現場の言葉で伝える「翻訳機能」の重要性でした。

バルニバービ ISC部長の言葉が印象的です。

「私たちIT担当者は、“翻訳者”としての役割の重要性をもっと認識すべきだと思います。現場のITリテラシーが低いからといって、それが悪いわけではありません。単に、学んできた環境や業務領域が異なるだけなのです。

実際、私たちも飲食の現場においては“飲食リテラシー”が高いとは言えません。だからこそ、互いの違いを理解し、橋渡しする姿勢が求められるのです」

言葉の壁を乗り越える3つのアプローチ

今回の座談会で明らかになったのは、飲食業界のIT担当者にとって「現場との言葉の壁」が最大の課題の一つだということです。しかし、各社の取り組みから、この壁を乗り越える3つのアプローチが見えてきました。

1. 翻訳機能の強化
IT専門用語を飲食現場の言葉に置き換える。逆に現場に対する理解を深める。「ハイフン」ではなく、iPhoneで言えば、「数字の9の下にある横棒」といった具体的な説明を心がけます。

2. 現場メリットの明確化
ITツール導入が現場スタッフのKPI達成や業務負荷軽減にどう貢献するかを具体的に示し、ITツールが現場スタッフにとってもメリットがあることを理解してもらいます。

3. 極限までの自動化
現場にITを意識させない仕組み作り。「触らせない」「考えさせない」システム設計を追求します。

飲食業界のDX推進において、最も重要なのは高機能なツールよりも、現場とITの“言葉のズレ”を埋める存在のほうが、今のフェーズではよっぽど価値があるのかもしれません。ハイフンと横棒の15分の攻防から始まったこの座談会は、業界全体にとって貴重な気づきを与えてくれました。

私自身、全国の飲食店を訪問する中で、現場とIT担当者の間に言葉の壁があることを実感していました。今回の座談会で、その解決策が具体的に見えてきたことは大きな収穫でした。

次回は、こうした現場での苦労を重ねながらも、IT担当者としての地位向上を目指す彼らのキャリア観について詳しく見ていきたいと思います。


参加企業・参加者の皆さま
株式会社バルニバービさま、株式会社バルニバービウィルワークスさま、株式会社スプラウトインベストメントさま、株式会社FTG Companyさま、株式会社ビリオンフーズさまの皆さま、貴重なお時間と実体験の共有をありがとうございました。

同じ課題を抱える読者の皆さまへ
現場との言葉の壁でお悩みの方、ぜひ一緒にこの問題に取り組んでいきませんか。業界全体でノウハウを共有し、飲食業界のDX推進を加速させていきましょう。

飲食事業者IT担当者座談会_参加メンバー