本音で語る座談会レポート②

文:白鳥幸一(トレタマーケティング担当)

前回の座談会で明らかになった現場とのコミュニケーション課題。しかし、それ以上に深刻な問題が浮き彫りになりました。それは、飲食業界におけるIT担当者の地位の低さと、専任部署の不在という構造的な課題でした。

マーケティング担当として多くの飲食企業を訪問する中で、私も同様の課題を目の当たりにしてきました。今回の座談会では、その解決に向けた具体的な取り組みを知ることができ、非常に勉強になりました。

「兼任」が当たり前の業界事情

座談会参加者の名刺を見ると、IT担当者の置かれた状況がよくわかります。「ITシステムコントロール部」「デジタル戦略本部」といった専門部署の肩書きもありますが、多くは「営業サポート部」「マーケティング部」など、他の業務と兼任しています。

トレタ代表 中村(ファシリテーター)が指摘したように、「IT専門の部署がない。皆さん、何か他のマーケティングとか、いろんな部署にいて、ITも見てますという感じ。これは意外と根が深く、この業界がそもそもITを重視していないことの現れ」なのです。

エンジニアは「役員待遇」、IT担当は「兼任」の矛盾

この構造的な問題を象徴する事例として、FTG Companyさまの給与格差問題があります。同社マーケティング部の小池さまは、社内の現実を語りました。

「うちには専門エンジニアが2人います。給与は役員待遇、一般的な飲食業界の水準を大きく上回っています」

この格差に対して現場からは不満の声も上がるそうです。

「『何でそんな高い給料払うんだ』という妬みはあります。ただ、専門エンジニアは1人で自社アプリ開発からポータルサイト作成まで全てこなしているんです」

同社の田中さまは、この問題の根本原因を経営視点で分析します。

「年商100億を超える規模でも、エンジニアやIT人材が何を生み出しているかを言語化できていません。共通言語がないため、『社内で内製化する意味はどこにあるのか』という議論になってしまうんです」

採用時の給与水準が最大の壁

部署は作れたものの、最大の課題は、IT人材の採用でした。飲食業界の給与水準と、IT分野の市場価格には大きなギャップがありました。

「当初は、飲食業界の基準をもとにして、IT人材を市場価格の3分の1程度の給与で採用しようとしていたんです。

『この条件では採用は不可能です』と説明し、求人サイトを表示し『これが現在の相場です』と現実を共有しました」

その結果、IT人材に対して適正な給与水準を設定することで、ようやく採用活動をスタートできる体制が整いました。

「ようやく採用活動に踏み出せる段階に来ました。最初の提示額では、何も始められませんでした」

規模による課題の違いが鮮明に

興味深いのは、同じ飲食業界でも各社が直面するIT課題が大きく異なることでした。この違いは、会社の規模よりも経営陣の理解度や事業方針によるところが大きいようです。

座談会では様々なアプローチが紹介されました。

専任部署設立を目指すアプローチ
 ・IT統制の観点から経営陣を説得
 ・適正な給与水準での人材確保
 ・全社的なシステム統合

効率化重視のアプローチ
 ・外注活用による業務効率化
 ・限られたリソースでの最適化
 ・必要最小限のシステム運用

例えば、スプラウトインベストメントの白石さまは、本部3人での運営体制を語られました。

「本部は3名しかいません。他の2人は経理と労務をやっているので、IT関連は全て私一人です。システムは大体アウトソーシングして、管理だけを行っています」

現場出身者のキャリア転換事例

バルニバービウィルワークス_井本さま

一方で、現場からIT業務に転身する事例も見られました。バルニバービウィルワークス井本さまの経験は興味深いものでした。

「コロナ前まで関西の子会社で現場にいました。コロナで1日にお客さん1人だけという状況になり、『何か手に職をつけないといけない』と思ってHTMLを勉強し始めました」

在宅ワークが普及する中、井本さまはWebサイト作成やグラフィックデザインを学習しました。その後、現場経験とIT知識を活かせる「モバイルオーダー担当」というポジションに就きました。

「現場の接客とIT系の両方を楽しめて、どちらもストレスなく働けるシステムを作りたいです」

こうした現場とITの両方を理解する人材について、中村は「アナログ人材とテクノロジー人材の断裂を感じていて、両方わかる人がいません。そういう人材がこれから業界で非常に価値を持つのではないでしょうか」と井本さまのようなキャリアの重要性を強調しました。

事業部長レベルでの判断が必要

ビリオンフーズ渡辺さまは、IT活用の成功には現場を熟知した事業部長レベルの判断が重要だと語られました。

「テクノロジーと現場の融合をうまくできる人は、事業部長なのかなと思っています。お客さまのことも知っているし、ブランドとしてのあり方も知っているし、コストコントロールもできる」

つまり、システム導入の成否は、IT担当者の技術力だけでなく、事業を総合的に判断できる管理職の理解と関与にかかっているということです。

給与体系の分離が必要な理由

この課題に対して、ビリオンフーズさまは思い切った解決策を取られました。IT関連の人材には、既存の給与体系とは全く別の基準が適用されたのです。

「転職市場で同じ人を採用しようと思ったら600万円必要だから、600万円で採用する。期待値とマイルストーンを設定して、達成したらインセンティブを支払う仕組みを作りました」

渡辺さんによると、この給与体系は既存の飲食業界の基準とは完全に分離されているそうです。

業界全体での意識改革が急務

FTG-Company_田中さま

今回の座談会で浮き彫りになったのは、飲食業界におけるIT人材の地位向上には、個社の努力だけでなく業界全体での意識改革が必要だということでした。

FTG Companyの田中さまは、業界の変化について次のように語られました。

「他業界と比べて進化が遅いと感じています。でも、新しいプロダクトを作る時に初めて『エンジニアがいた方がいい』『IT部門があった方がいい』という議論が始まります」

地位向上への3つのステップ

座談会での議論を整理すると、飲食業界におけるIT担当者の地位向上には、以下の3つのステップが必要だと言えます。

ステップ1:価値の言語化
IT業務がもたらすコスト削減やリスク軽減の効果を、経営陣にわかりやすく説明します。

ステップ2:適正な評価制度の確立
既存の給与体系とは別の基準で、IT人材の市場価値に見合った待遇を設定します。ビリオンフーズさまのような思い切った制度変更が必要です。

ステップ3:専門性と事業理解の両立
技術的な専門性だけでなく、現場や事業全体を理解できる人材の育成が重要です。井本さまのような現場出身者の活用も重要な選択肢です。

飲食業界のDX推進において、IT担当者の地位向上は避けて通れない課題です。エンジニアは役員待遇、IT担当者は兼任という現在の矛盾した状況を変えるには、業界全体での取り組みが求められています。

今回の座談会を通じて、私は各社が独自の工夫で課題解決に取り組まれていることを知り、改めて飲食業界の可能性を感じました。一社だけでは難しい課題も、このような情報共有の場があることで解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか。

次回は、こうした構造的課題を抱えながらも、現場でのシステム導入を成功させている事例を通じて、意思決定プロセスの改善について考えてみたいと思います。


参加企業・参加者の皆さま
今回も貴重な体験談と具体的な取り組み事例をご共有いただき、ありがとうございました。

同じ課題を抱える読者の皆さまへ
IT担当者の地位向上でお悩みの方、ぜひ経験や知見を共有し合いましょう。一社だけでは変えられない業界の課題も、連携することで解決の糸口が見えてくるはずです。

飲食事業者IT担当者座談会_参加メンバー