文:白鳥幸一(トレタマーケティング担当)
専任部署の設立や適正な待遇など、IT担当者の地位向上への課題が明らかになった前回。しかし現実には、そうした理想的な環境が整わない中でも、システム導入を成功させなければなりません。今回は、各社の意思決定プロセスと、現場スタッフを動かす具体的な手法について詳しく見ていきます。
仕事で全国の飲食店を回る中で、「システムは導入したけれど現場で使われていない」という話をよく耳にします。今回の座談会では、そうした課題を乗り越える具体的なノウハウを学ぶことができました。
意思決定の主導権は「現場7割、経営3割」
座談会で興味深かったのは、システム導入の意思決定プロセスが各社で大きく異なることでした。
FTG Companyの田中さまは、同社の意思決定構造を「現場レベルで7割決まって、役員判断が3割」と表現しました。
「データや現場の課題感を吸い上げて、各ブランドのマネージャーや事業部長が判断し、最終的に役員決裁となります。既存の飲食事業については、現場の声が強いという感覚です」
一方、新規プロジェクトでは状況が異なります。
「新しいプロジェクトで言うと、『これ入れましょう』と提案すればすぐに『分かった』となります。既存事業と新規事業で判断基準が違うんです」
業態別に異なる導入方針
同社の小池さまは、業態ごとに導入方針を変えているという興味深い事例を紹介しました。
「うちには3つの業態があります。『焼肉ふたご』はヒューマンパワーで何とかするので、モバイルオーダーはいらない。全部聞きに行って、全部やりたいと現場が言っているからそうしています」
「『餃子業態』は単価も低いので、モバイルオーダー頼りです。空いているときは『他にいかがですか』といった営業も併用しています」
「『サラダ業態』はほぼLINEから予約やデリバリーができる仕組みになっています」
それぞれのブランドマネージャーの判断と現場の意向を尊重した結果、同一企業内でも全く異なるアプローチを取られています。
現場からの声が上がらない企業の苦労
一方で、現場からシステム導入の要望が上がってこない企業もあります。スプラウトインベストメントの白石さまは、その苦労を語られました。
「現場からは全く要望が来ません。店長はお客さまをつなぐ力はめちゃくちゃ持っているんですが、ITについてはよく分からない。分からないと言って導入しないんです」
そのため、白石さま自ら店舗を回って課題を吸い上げ、メリット・デメリットとコストをまとめて経営陣に提案しています。
「私が店舗を回って吸い上げて、メリット、デメリット、コストをまとめて上に上げる。全て私一人でやっています」
社長の人脈が導入のきっかけになることも
意外に多いのが、経営陣の人脈がシステム導入のきっかけになるパターンでした。
ビリオンフーズ渡辺さまは、そのプロセスを語りました。
「うちの社長は横のつながりが強いので、『どこどこさんがあるシステムを使い、良いと言ってたよ』という情報が入ってきます。それで『商談しといて』と急に投げられることがあります」
「私も導入している企業をリサーチして、あれ、あそこも入れてる、ここも入れてると気づくと、『そんなに入れてるのだからちょっと聞いてみよう』となることもあります」
「KPI連動」で現場の抵抗を突破

現場スタッフにシステムを使ってもらう方法として、最も効果的だったのがビリオンフーズさまの「KPI連動アプローチ」でした。
渡辺さまは、現場説得の具体的な手法を披露しました。
「『いいからやれ』もありますが、KPIに絡めた説明が効果的です。例えばモバイルオーダーを入れることで、今KPIになっている原価率や人件費率が改善されます」
「人件費率が1〜2%下がれば、KPI達成がめちゃくちゃ楽になりますよね。しかも、空いた時間で接客トークをしっかり回せるし、お見送りもちゃんとできる。アンケート点数も上がります。モバイルオーダーやった方が良くないですか?」
この説明方法の秘訣は、システム導入が現場スタッフの業務を楽にし、評価向上につながることを明確に示すことでした。
「あなたの仕事を快適にします、あなたの給料が上がる要因となりますということをちゃんと理解してもらった上で、サービスを説明します」
現場を変えるより「システムで自動化」
最も徹底した取り組みを見せたのは、前回も紹介したビリオンフーズさまの「現場IT撤廃作戦」でした。
「基本的にはITに関わることを現場にやらせないという主義です。いかにして触らせないか、ひたすら分かりやすくするかということだけを考えています」
この方針により、店舗からパソコンを完全撤去し、iPadのみの環境を実現されました。納品書入力なども全て自動化されています。
「とにかくお客さまと働いているスタッフに向き合うことが、店舗責任者や社員の仕事。それは私たちにはできない彼らのバリューなので、それに全振りしてもらっています」
バルニバービウィルワークス山口さまも、この考え方に共感を示されました。
「本部の人が全部やってくれたら楽ですよ。いろんなシステムを入れても、結局システム同士が連携しないんです。そうすると紙の方が現場としては使いやすいので、『システムをどうにかして』と言われても困ってしまいます。だから結局、現場は新しいシステムを使わなくなってしまうんです」
導入後のフォローアップが成否を分ける

システムを導入しても、現場での定着は別の課題です。山口さまは、兼任IT担当者の限界を指摘されました。
「入れました、終わり。他に業務があるので、使っているかどうかのチェック機能もない。数か月後に『使ってないよね』『え、使ってなかったの?』ということがよくあります」
この問題に対して、ビリオンフーズさまでは徹底したフォローアップ体制を敷かれています。
「意思統一を図れるマネージャーに集中的に説明して、できていなかったらすぐ連絡する。なぜできていないのか、どこで詰まっているのかを毎週会議で詰めていきます」
「無理強いしない」アプローチの効果
一方で、井本さまは全く異なるアプローチを取られています。
「やりたくないという意識でいるんだったら、まずはやらなくてもいいんじゃないかと思っています。他の店舗でやり始めて、店が回るようになってきた、売上が上がってきたという声が上がってきたら、『あ、じゃあやってみようかな』と思ってくれるのかなと」
これは、実績を見せることで自然な導入を促す手法です。無理強いによる反発を避け、成功事例の横展開を狙われています。
給与計算システム導入を見送った理由
興味深い事例として、ビリオンフーズ松浦さまが語った給与計算システム導入の見送り事例がありました。
「最近、給与計算を内製化しようという流れがありました。いろんなサービスを調べて、検討したのですが、結局見送ることになりました」
給与計算は複雑で、システム化の効果は大きいですが、リスクも高く、慎重な判断が求められる分野です。
「本部業務であれば、担当者がサービスを探すところから稟議を上げるところまで全部やることが多いです。現場に近いサービス、例えばモバイルオーダーなどは、現場の店長やエリアマネージャーから『これちょっと何とかならないですかね』という話が上がってきて、そこからサービス選定が始まります」
システム会社への要望「連携できるものを」
座談会では、システム会社に求める機能についても議論されました。最も多く挙がったのが「システム連携」でした。
バルニバービ ITシステムコントロール部長は、現場とバックオフィスで求める機能の違いを整理されました。
「お店でお客さまの満足度に影響が出る部分は、個々に合ったものを選びたい。それ以外は共通のシンプルなものにしたい」
FTG Company小池さまも同様の考えを示されました。
「本当は一元管理したいんですが、業態によって違う。現場で使いたいものは現場の判断で選びたい。ただ、つながっていないと確認が取れない。全部連携するのも手間なので、大きなプラットフォームがあってカスタマイズできるものがあればいいですね」
オールインワン vs ベストオブブリード
トレタ中村からの質問で、興味深い議論が展開されました。「全てを1つのシステムでまかなうオールインワン型と、各機能で最適なシステムを組み合わせるベストオブブリード型、どちらが好ましいか」という問いでした。
渡辺さまは「全て完璧なものであれば、オールインワンが欲しい」としながらも、現実的な判断を示されました。
「でも全てが完璧なのは難しい。業態によってニーズが違うので、どこかは妥協することになります」
結果的に、現場に影響する部分は個別最適、バックオフィス系は統合という使い分けが現実的な解として浮かび上がりました。
経営陣の意識改革も重要

システム導入の成否は、現場だけでなく経営陣の理解も大きく左右します。スプラウトインベストメント白石さまは、この課題を率直に語られました。
「バックオフィスへの投資対効果について、経営陣と現場で認識の違いがあり、双方の視点を擦り合わせることが課題となっています。」
成功する導入プロセスの4つの要素
座談会での議論を整理すると、システム導入を成功させるには以下の4つの要素が重要だということがわかりました。
| 1. 現場メリットの明確化 KPI改善、業務効率化、評価向上など、現場スタッフにとっての具体的なメリットを数値で示します。「あなたの仕事が楽になる」「評価が上がる」を明確に伝えます。 2. 段階的な導入と選択肢の提供 無理強いせず、成功事例を作って横展開を図ります。業態や店舗の特性に応じて選択肢を用意します。 3. 徹底した自動化による負荷軽減 現場のITリテラシーを上げるより、現場が意識しなくても済むシステム設計を追求します。 4. 継続的なフォローアップ体制 導入後の定着度をチェックし、問題があれば即座に対応する仕組みを構築します。 |
意思決定プロセスは企業によって大きく異なりますが、現場の納得感を得ることが成功の鍵となります。「いいからやれ」では限界があり、「KPI達成が楽になりますよ」という現場目線のメリット訴求が効果的でした。
この座談会を通じて、私は各社の創意工夫に感動しました。同じ飲食業界でも、これだけ多様なアプローチがあることを知り、トレタのマーケティング活動でも参考にさせていただきたいと思います。
次回は、各社が今後注力したい重要課題について、採用、集客、効率化など、それぞれの取り組みを詳しく見ていきたいと思います。
参加企業・参加者の皆さま
システム導入の現場での実体験とノウハウをご共有いただき、ありがとうございました。
同じ課題を抱える読者の皆さま
現場を動かすのに苦労されている方、ぜひ今回の事例を参考に、自社に合ったアプローチを見つけてください。一緒に試行錯誤しながら、業界全体のレベルアップを図っていきましょう。




