飲食店にとってよりよい店舗作りに不可欠と言われている、QSC。「言葉は知っていても具体的に何のことだかわからない・・・」そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか?
QSCは、飲食店を運営していく上で基本的な3要素を表した言葉です。QSCをどのようにして維持・向上していくかによって店舗作りに大きな影響を及ぼします。
そして、さまざまな価値観の多様性が広がる現代において、QSCの形も変わってきており、ただQSCだけに注力すれば良い店舗が作れるという簡単な話ではなくなってきています。
そこで今回は、飲食店の経営で基本的な原則とも言われるQSCの基礎的な知識から、必要とされている理由、QSCを向上させていくためのステップなどを解説します。
飲食店舗の約7割が「お店のデジタル化は必要と回答」。
飲食店のデジタル化を検討してみませんか?
DXという言葉はよく聞くがそもそもどういうことなのか…、自店にとって必要なことなのか、など、一度は耳にした言葉ではあるものの実体についてはよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
DXとは「デジタル化」「IT化」を指し、簡単に説明をすると、テクノロジーの力を活用し飲食店運営を効率化していくこと、です。
言葉だけを聞くと難しく感じますが、人手不足が深刻化する飲食店にとってこそDXが必要だと考えます。
DXとはどういうこと?という方のために、専門知識がなくても誰でも簡単に学べるようにイラストを交えた資料をご用意しました。ぜひこの機会に一度お読みください。
※引用:株式会社ぐるなび「飲食店のDX化に関する調査」より
3分で理解!QSCとは何なのか?その意味を解説
そもそも「QSC」とは何のことなのでしょうか?
QSCとは、以下3つの単語の頭文字を取った略称です。
- Quality(クオリティ)
- Service(サービス)
- Cleanliness(クリンリネス)
これはマクドナルドの創業者レイ・クロック氏が店舗を経営する上で重要な要素として提唱したと言われているもので、今では飲食業界を中心にサービス業界全体で取り入れられています。このQSCの維持・向上を実現することで、よりよい店舗運営に繋がります。
では、具体的にこれら3つの用語がそれぞれどういった意味を持つのか、詳しく見ていきましょう。
Quality(クオリティ)
クオリティとは、料理やドリンクなど商品の品質レベルのことをいいます。クオリティは店舗内で評価するのはもちろん、顧客がどう感じるか?という観点を持っていなければなりません。最終的にクオリティを評価するのは顧客だからです。
クオリティの評価は、料理やドリンクの味わいや見た目、ボリューム、提供スピードなど総合的な観点によって決まります。クオリティは価格とも密接な関係があり、クオリティが低いのに高価格だと顧客の評価は下がります。このバランスも重要です。
クオリティの維持・向上を実現することで店舗の評価を高めることができ、新規顧客の集客やリピーターの獲得に繋がります。また、スタッフにとっても「スキルアップに繋がる職場」と感じてもらうことができ、仕事に対するモチベーションを上げることができます。
Service(サービス)
サービスとは、顧客に対するおもてなし・接客全般を指します。接客は、顧客のご案内や注文受付、会計や予約受付などさまざまなシーンで発生します。そのとき、顧客に不快感を与えず、心地よく感じてもらえるかが重要です。
料理が美味しいとしてもサービスが悪ければ、店舗全体の印象は悪くなります。今はSNSや口コミサイトもあり、ネガティブな書き込みもされてしまうかもしれません。そうなると集客面に大きな影響を与えます。
快い接客はもちろん、円滑なオペレーションも大切です。全体がスムーズに動いていなければスタッフも心地よい接客が難しくなります。また、顧客の属性に合ったサービス・おもてなしの提供も顧客満足度の向上に繋がります。
Cleanliness(クリンリネス)
クリンリネスとは「清潔な状態を保つこと」という意味で、飲食業界では店舗の衛生レベルのことをいいます。料理やドリンクなど体内に取り入れるものを提供する飲食店にとって、クリンリネスは最低限保たれなければなりません。不衛生な環境だと、食中毒の発生率が高まったり。顧客にとっても印象も悪くなります。
クリンリネスの維持・向上は、日頃の清掃によって保たれます。客席や入り口、トイレや外観など顧客の目につく場所はもちろん、厨房やバックヤードなどにも配慮が必要です。
また、スタッフの服装や見た目の清潔感も店舗の印象に影響します。ユニフォームに汚れがあったり髪型がボサボサなど見た目が不衛生だと、どんなにいい接客をしてもネガティブな印象を持たれてしまいます。”自分たちは店舗の顔である”ということを忘れずに、清潔感を保つようにしなければなりません。
QSCがなぜ必要なのか?3つの理由を解説
QSCはよりよい店舗運営を実現する上で重要な指針になると考えられてきました。
では、なぜQSCが必要なのでしょうか?理由は3つあります。
- 顧客満足度に影響する
- 従業員満足度に影響する
- 言語化することで意識できる
それぞれ解説します。
顧客満足度に影響する
まず第一に言えるのは、QSCが顧客満足度に大きく関わるということです。例えばクオリティの低い料理やドリンクを提供したり、サービスの質が悪ければ、顧客の足は遠のきます。汚い店舗内だと顧客は居心地が悪くなって、2度と来てもらえないかもしれません。
従業員満足度に影響する
QSCは従業員の満足度にも繋がります。料理の品質向上や心地よいサービスの実現は仕事のやりがいにも繋がります。また「しっかりとした職場」という印象にも繋がり、定着しやすくなります。
言語化することで意識できる
QSCを知らない方でも言葉の意味を聞くと「当たり前なこと」と思われるかもしれません。しかし、QSCは大切なこととなんとなく理解していながらも日々の営業に追われて疎かになりがちな部分ではないでしょうか。
「QSC」という単語を敢えて言語化することで、従業員はどのようなことに注力して働けばいいのかが明確になり、問題点も改善しやすくなります。QSCという指針があれば軸を持ってよりよい店舗を目指していけるのです。
このようにQSCは顧客満足度、そして従業員満足度に関わるもので、飲食店にとって重要な指針であると考えられます。
時代に合わせて変化している「新・QSC」
時代が急速に変化する中で、QSCも新しい形が提唱されてきています。
ここでは、近年改めて定義されている新しいQSCを紹介します。
QSC&V
QSC&Vは、QSCに「Value(価値)」を追加したものです。日本マクドナルド株式会社がビジネスの根底に重要なものとしてQSC&Vを掲げています。
日本マクドナルド株式会社では、”V=価値とはQSCが全ての標準を満たして提供できたときに生まれるもの”としています。飲食店が提供できる”V=価値”は、おいしい料理や楽しい空気感、心からくつろげる癒しなどさまざまありますが、”V=価値”を生むためのベースにあるQSCは重要であるということに変わりはありません。
(▶︎参考「レストラン・ビジネスの考え方」日本マクドナルド株式会社)
QSC×H
QSC×Hとは、フライドチキンのフードチェーンとして知られる日本KFCホールディングス株式会社が実践している基本姿勢です。
HはHospitality(ホスピタリティ:おもてなしの心)の頭文字です。KFCはQSCだけでなく、このHも欠けてはならないとし、ビジネスの基本として掲げています。
(▶︎参考「人財育成ポリシー」日本KFCホールディングス株式会社)
その他
他にもQSCをベースにした考え方としてQSC+A(Atmosphere=雰囲気)などもあります。こうしたQSCの変化は、現代のニーズへの対応ともいえるでしょう。
飲食店に求められるものは、価値観の多様化や市場競争の激化など時代の流れや背景によって大きく変化しています。QSCをひとつの指針として捉えながら、柔軟に対応していくことが大切です。
QSC向上のための3ステップ
では実際にQSC向上に取り組むための3ステップを補足も含めて解説します。
- 現状の課題を整理
- 対策を考え、スケジューリング
- 実施・改善
- 補足:そもそも、理想の店舗とは?
現状の課題を整理
QSC向上の具体的な施策に取り組む前に、まずは現時点で店舗がどのような状況にあるのかを確認します。
料理やドリンクの品質、接客力、店舗内の衛生面などさまざまな面で店舗の現状レベルを把握します。このとき、よく活用されるのがチェックシートです。
QSCの現状を把握するためにチェックすべき項目は多岐に渡ります。それらを全て一覧のリストにしてチェックできるようにすれば、現在の状況や今後改善すべき点が明確になるでしょう。チェックシートの作成方法は次章で詳しく解説します。
客観的な視点を取りいれるために、顧客からアンケートを取るのも効果的です。店舗側・顧客側の両側面からの観点をまとめて、現状の課題を整理しましょう。
対策を考え、スケジューリング
課題が明確になったら、どのようなことをすれば改善・向上できるのか対策を考えて、実践するための計画を立てます。
チェックシートで店舗の現状を把握するだけで満足していては何も改善することはできません。改善点に対して対策を立てて実践していくことが大切です。
ただ、QSC全ての面で一気に施策に取り組もうとすると店舗全体の負担が大きくなります。着実に改善していけるような、ゆとりのあるスケジューリングを行いましょう。
実施・改善
対策・スケジュールを立てたら、あとは実践です。対策を実践したら、チェックシートで改めてチェックしていきましょう。結果的に改善できていなければ対策の方法を変えるなど臨機応変に対応します。そうすれば着実にひとつずつ課題をクリアしていけるはずです。
また現場スタッフからの意見も収集しながら進めていけば、店舗全体でよりよいお店作りを目指すことができます。
そもそも、理想の店舗とは?
よりよい店舗作りのために最初のステップとして現状を把握するのは大切なことです。一方で「自分たちがどのような店舗作りをしたいのか」という目指すべき理想の店舗像も明確にしなければなりません。
目標が定まっていない中で部分的に改善をしても軸がブレて新たな問題点を生みかねません。自分たちがどのようなお店を作っていきたいのか、目標地点を明確にして店舗全体で共有するようにしましょう。
QSC向上に必須!チェックシートの作り方
QSC向上のためによく用いられるのがチェックシートです。このチェックシート、どのように作成すればよいのでしょうか。具体的な作成方法を紹介します。
チェックシートの作り方
チェックシートを作るには、チェックするための項目が必要です。チェックシートの項目はQSCを維持・向上するために必要な要素を記載します。どのような項目が必要かは、目指したい店舗像によって変わります。
例えばクオリティ面であれば、自分たちの料理レベルを維持・向上するために何に気をつければよいでしょうか?料理といっても味、量、盛り付け、提供スピード・・・さまざまな要素があります。その中で重視すべき要素を項目化していくのです。
具体的には以下の通りです。QSCそれぞれの側面で例を挙げます。
クオリティのチェックシート
クオリティのチェックシートで掲載したい項目は以下の通りです。
- 料理やドリンクの味
- 料理やドリンクの提供スピード
- 盛り付けの綺麗さ
- レシピの遵守度
- マニュアルの遵守度
- 段取り
- 食材の管理
など
サービスのチェックシート
サービスのチェックシートで掲載したい項目は以下の通りです。
- 言葉遣い
- 声の聞き取りやすさ
- 爽やかな表情
- ご案内の流れ
- メニューの説明
- 混雑時の対応
- ホスピタリティ
- クレーム対応
など
クリンリネスのチェックシート
クリンリネスのチェックシートで掲載したい項目は以下の通りです。
- トイレ
- 店舗内の床
- 入り口付近
- レジ付近
- 客席の椅子やテーブル
- メニューの汚れ
- 卓上の調味料
- 照明の埃
- 厨房内
など
上記を参考にチェックシートを作成した場合、以下のようになります。
▼チェックシート作成の例
チェックシートの問題点
チェックシートは一般的に管理職の人がチェックを行います。管理職の人は店舗数が多ければ多いほど、普段現場にいることが難しくなります。現場スタッフとコミュニケーションを取る機会も少なくなるでしょう。
そういう状況下でチェックを行い、厳しい指摘ばかりしてしまうと現場スタッフからの不満が募りやすくなります。そうなると店舗作りのためのチェックシートのはずがネガティブな雰囲気を作り上げるきっかけとなってしまいます。
チェックシートはあくまで顧客・従業員満足を向上させるためのひとつのツールです。それを忘れずに活用するようにしましょう。
QSCアップに重要な2つのポイント
QSC向上のための取り組みを成功に導くためには、さらに大切なポイントが2つあります。
- 全体的な業務効率化を図る
- 現場スタッフと一体となって行う
それぞれ解説します。
全体的な業務効率化を図る
QSCを向上するための取り組みは、時間や労力がかかります。今までの業務に加えて新たな労働時間や労力が発生すれば、店舗全体にとっては大きな負担となります。
そこで、業務効率の見直しをしましょう。今まで当たり前のように行ってきた業務でも、振り返ってみると必要のない業務が見つかったりします。それらを削減すれば時間や労力が生まれます。
また、アナログで対応しているために膨大な時間と労力を要している場合もあります。この点はデジタルツールを導入することで解決できます。デジタルツールはコストが発生する分、業務効率化によって新たな時間と労力を生み出すのに有効です。デジタルツールの活用方法については、次章で解説します。
現場スタッフと一体となって行う
チェックシートの問題点でもお伝えした通り、チェックシートを一方的なコミュニケーションツールとして使ってしまうと、スタッフに不満が募るなど逆効果となります。
大切なのは、スタッフと一体となってよりよい店舗作りをしていくということです。
そのためにはQSC向上の目的やチェックシートを使う理由の共有化など、現場スタッフに理解してもらうことが大切です。また、現場スタッフからの意見も取り入れるようにし、双方向の関係性を構築しながら取り組めばよりスムーズに進めていくことができるでしょう。
QSC向上に繋がるデジタルツールの活用
業務効率化を図る上で注目したいのがデジタルツールの活用です。手作業などアナログで対応していたシーンにデジタルツールを導入することで、業務効率を大幅に向上することができます。
例えば、セルフオーダーシステムを導入して注文業務をデジタル化したり、予約管理システムを導入して予約をWEBで受け付けられるようにすれば、顧客対応にかかる時間や労力を削減することができます。その削減できた時間や労力によって新たな負担を生むことなくQSC向上の取り組みに注力することができるのです。
この一連の流れはDXといい、近年飲食業界でも必要性が高まっています。もちろんデジタルツールの導入はコストが発生するため、その点も含めて考える必要はあります。しかし、新たな飲食店の形として大きな可能性を秘めています。
DXについてより詳しく知りたい方は「飲食店DX成功事例8選|企業がデジタル化に取り組むメリットも紹介」の記事も併せてご覧ください。
まとめ
今回は現代版のQSC入門ということで基礎的な部分から、大切なポイントを解説しました。最後に要点をまとめます。
- QSCとは「Quality(クオリティ)」「Service(サービス)」「Cleanliness(クリンリネス)」の略語で飲食店に最低限必要な3要素
- QSCは顧客満足・従業員満足に関わる重要な指針
- 言語化することで明確化できるのもメリットのひとつ
- QSCも時代によって変化しており、柔軟に捉えていくことが大切
- QSC向上のためには「1現状の課題を整理」「2対策を考え、スケジューリング」3実施・改善」の3ステップを踏むとスムーズに進められる
- 理想となる店舗像を持つことも大切
- チェックシートにはQSC向上に必要な項目を記載する
- チェックシートは一方的なコミュニケーションツールにならないよう注意する
- QSC向上に取り組む前に業務効率化を図ること
- 業務効率化にはデジタルツールの活用が効果的
- QSC向上は現場スタッフも含めて店舗全体で行っていくこと
QSCは店舗の業務を見直し、現レベルの維持・向上を図る上で役立つ指標です。
ただし、社会のニーズは時代と共に移り変わっています。QSCという言葉に捉われすぎずに、柔軟な観点をもって臨機応変に対応していくことが最も大切です。
QSCをベースとしながらも、課題に対してあらゆる方向からアプローチをし、よりよい店舗作りを実現していきましょう。