近年、コロナ禍を経て洋菓子店の人気が盛り上がっています。帝国データバンクの調査によれば、洋菓子店の倒産件数はここ10年で最小となり、消費者のスイーツへの支出額がコロナ前よりも上昇。特にケーキへの支出額は全体平均をさらに上回りました。
(引用「コロナ禍で復活?街の洋菓子店 倒産が急減、過去10年で最少ペース 「プチ贅沢」でコンビニスイーツから客奪う」PR TIMES)
ケーキはスイーツを代表する洋菓子のひとつ。誕生日などのお祝いだけでなく、コンビニエンスストアでも気軽に購入できる身近なスイーツでもあります。「スイーツ専門店を開業したい!」という人の中には、ケーキ屋を選ぶ人も少なくないでしょう。ケーキ職人であるパティシエに憧れる人もいるはずです。
そこで今回はケーキ屋を開業したい人に向けて、開業までの道のりや方法、必要な資格や資金などをまとめます。成功のコツもまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
修行は必要?ケーキ屋開業に至る3つのケース
まず、ケーキ屋を開業するためにはどのような道を歩めばいいのでしょうか?
一般的な方法としては3つのケースが考えられます。
- ケーキ屋で働く
- 製菓専門学校で学ぶ
- 独学で学ぶ
それぞれ解説します。
ケーキ屋で働く
「ケーキ屋を開業したい!まずはケーキ屋で働こう!」
このケースを考える方が最も多いのではないでしょうか。
ケーキ屋で働けば、給料をいただきながら経験を積むことができ、店舗運営のノウハウも学ぶことができます。自分がケーキ屋を開業するイメージも掴みやすくなり、既に開業しているオーナーから学べることもたくさんあるでしょう。
ケーキ屋といってもさまざまなコンセプトのお店があります。自分が開業したいケーキ屋に最も近いコンセプトのお店で働けるのがベストですが、すぐに見つかるとは限りません。また、仕事となれば労働環境や人間関係などの問題も降りかかってきます。そのため「ケーキ屋になりたい!」という強い意志が重要です。
製菓専門学校で学ぶ
製菓専門学校は、ケーキやチョコレートなど製菓全般にまつわる知識や作り方を学ぶことができる教育施設です。主にショコラティエやパティシエなど菓子の職人を目指す人たちが集まっています。
高校卒業後の進路としてはもちろん、社会人が通えるコースもあります。一般的には1〜2年通う必要がありますが、知識や経験がゼロからでも学びやすく、系統だった知識やスキルを身につけることができます。
当然、学費が必要で約100万〜300万程度かかります(参考「令和3年度学生・生徒納付金調査」東京都専修学校各種学校協会)。決して少ない金額ではありませんが、専門学校は洋菓子全般について学習できるだけではなく、求人情報が集まっていたり、製菓業界に詳しいプロの先生や先輩方も多く在籍しているため、開業にマイナスなことはないでしょう。
独学で学ぶ
元々ケーキ作りが好きな人の中には、プロ顔負けの経験やスキルが身についている方もいるかもしれません。そのスキルを武器に開業するというのは不可能ではありません。
後ほど詳しく解説しますが、ケーキ屋は必要な資格・認可があれば誰でも営業可能です。店舗物件がなくても開業する方法もあります。
ケーキの評価を決めるのは、顧客です。顧客にとっては購入したケーキの味やビジュアルが重要であり、作った人の経験の有無はそれほど関係ありません。もちろん、認めてもらうために相応の努力は最低限必要です。
ケーキ屋の開業に修行は必要なのか?
前章でお伝えした通り、独学で学んで開業できるのなら、専門学校での教育やケーキ屋での経験は必要ないのでしょうか?
ケーキ屋で働くメリットは、毎日朝から晩までケーキ作りにまつわる経験を蓄積できることや、経験を積んでいけば店舗運営の業務に携われる点です。独学の場合、生活費を稼ぎながらケーキ作りを行うため、使える時間が限られます。ケーキ屋で働くことによって得られる経験値の量は格段の差があります。
専門学校への入学についてお伝えした通り、未経験からでも落ち着いて学ぶことができ、同じ志を持つ仲間ができます。
つまり、ケーキ屋での勤務や専門学校への入学は、ケーキ屋を開業して成功するための可能性を高めるための道といえます。もちろん、独学でも開業は可能ですし成功している人はいますが、相応の努力が必要です。
これらを踏まえた上で、自分に合った選択肢を選ぶことが重要です。
ケーキ屋を開業するまでの6ステップ
次に、ケーキ屋を開業するまでにどのような流れを踏めばよいのかを把握してイメージを掴みましょう。
一般的なステップとしては下記の通りです。
- コンセプト・事業計画を考える
- 物件を探す
- メニューを考える
- 設備・環境を整える
- 人材採用・教育をする
- 宣伝・告知をする
▶︎▶︎▶︎開業!
ケーキ屋も飲食店を開業する流れと似ています。まずはコンセプトを明確化することが大切。コンセプトがはっきりしていないと、店舗の内装やメニューなど各要素の統一感が欠け、魅力が伝わりづらくなります。事業計画も資金調達に必要になるため、この時点で練っておくとよいでしょう。
物件は1年以上かけて探す人もいるほどで、簡単に見つかるものでもありません。メニューや実現したい店舗イメージを考えながら同時進行で進めるのがおすすめです。
1人で開業する場合は、採用や教育について考える必要はありませんが、数人で運営する場合はこの点も考えておかなければなりません。今、飲食・サービス業全般で人手不足が深刻になっています。「募集すればすぐに集まる」と考えていると苦戦します。人材は店舗運営に必要不可欠な要素ですので、こちらもどのように募集するかを考えておきましょう。
開店の目処がたったら、宣伝や告知もSNSなどを使って積極的に行っていきましょう。「美味しいものを作れば来てくれる」という見込みも危険です。まずは認知してもらうことが重要です。
ケーキ屋を開業する4︎つの方法
ケーキ屋というと、店頭で購入してテイクアウトするという形式が一般的かもしれませんが、他にもさまざまな業態があります。ケーキ屋を開業したいのであれば、その業態を知っておくことで自分にとってどのような業態が最適なのかが判断できるようになります。
ここではケーキ屋を開業する4つの方法をお伝えします。
テイクアウト+イートイン
テイクアウトとイートイン両方でケーキが楽しめる業態です。店頭のショーケースではテイクアウトの受付、店内奥や2階、テラスなどで席を設けてコーヒーなどのカフェ機能も担うといった形が一般的です。
ケーキは持ち帰りの時間が限られているため、イートインは顧客にとって持ち歩きの時間を気にせずその場で好きなケーキを堪能できるというメリットがあります。店舗にとっても、テイクアウトだけでは売上に上限がありますが、イートインからの売上に期待ができます。
テイクアウト専門
店頭のみでケーキの販売を行う業態です。基本的には近隣の顧客がターゲットになりますが、人気店になれば遠方から通ってもらえる可能性も。テイクアウトのみなので小規模で営業可能で、比較的コストを抑えながらスピーディに開業することができます。
デリバリー専門(シェアキッチン)
ケーキは形も大切なので、運搬時に形が崩れてしまうかもしれないデリバリーは難しい一面もありますが、その問題をクリアできればチャンスはあります。例えばデリバリープラットフォーム大手のUber Eatsでは大手コンビニチェーンを中心に洋菓子が販売されています。
個人でケーキのデリバリーを開業する場合は、シェアキッチンを活用するのもひとつの方法です。シェアキッチンは調理環境が整っており、飲食店の営業許可を取得しているところがほとんどです。自ら物件を探して契約するよりも大幅にコストを抑えることができ、開業もしやすいです。試験的にケーキのデリバリーを始めてみたい方にはぴったりの方法といえるでしょう。
間借り
間借りとは、飲食店など既に営業している店舗の一部を借りて営業する業態をいいます。例えば、バーやスナックなどでは日中店舗を使わないところが多く、時間帯限定でレンタルしているところがあります。
ケーキの製造に必要な調理場環境があるかはしっかり調べなければなりませんが、間借りでの開業は家賃を抑えることができ、昼間限定や週末限定などスポットでの開業も可能です。シェアキッチン同様、「まず始めてみたい!」という方は検討してみるとよいでしょう。
ケーキ屋の開業に取得すべき資格・許可
ケーキ屋を開業するためには、法が指定する資格や許可を取得しなければなりません。主に以下の3つが必要です。
- 食品衛生責任者
- 菓子製造許可
- 飲食店営業許可(場合による)
それぞれ解説します。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、衛生面を管理する責任者として認められている公的な資格のひとつです。飲食店では店舗に1名以上必ず配置しなければならない、と食品衛生法によって定められています。
取得はそれほど難しくなく、地方公共団体が開催している講習に1日出席して学習すれば、修了証が交付されます。料金は10,000円程度で、エリアによって異なります。
取得したいときは、出店するエリアの食品衛生協会ホームページを確認したり、直接連絡しましょう。
菓子製造許可
ケーキ屋を開業する場合、菓子製造許可が必要です。これは出店するエリアの保健所に申請するもので、保健所による設備の検査をクリアすることで許可証が交付されます。
保健所は食品衛生法に基づいて、飲食店の設備が整っているのかどうかをチェックします。許可を得ないまま営業すると、違法として2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課せられるので注意しましょう。
申請費用はエリアによって異なりますが、一般的には15,000円程度です。
飲食店営業許可
飲食店営業許可とは飲食店を開業するときに必要な許可で、保健所が許可証を発行します。ケーキ屋としてイートインを設ける場合は、この飲食店営業許可が必要になります。無許可での営業は、菓子製造許可同様に罰則があるので要注意です。
ケーキ屋の開業資金は一般的にはいくらかかるのか?
ケーキ屋の開業を考えたときに、最も気になるのは資金面ではないでしょうか?必要な開業資金は、業態やエリアによって大きく変わります。
ここでは、一般的なケーキ屋として最も一般的なテイクアウト専門店として開業する場合、どのぐらい資金が必要なのかをお伝えします。
ケーキ屋の開業に必要な資金
飲食店の開業は数百万円から1000万円以上が必要と言われていますが、ケーキ屋も同じ程度かかると考えてよいでしょう。
ケーキ屋の開業費用としては、以下のようなものが挙げられます。
- 店舗物件取得費
- 施工費(内装・外装)
- 厨房・店舗設備費
- 消耗品・備品
- 梱包材
- 運転資金
- 人件費
など
店舗物件取得費や施工費は初期費用の中でも最も大きな割合を占め、数百万円は必要です。また営業が始まれば、人件費や食材費、水光熱など毎月発生する経費があります。開業後すぐに営業が軌道にのるとは限らないので、最低でも半年以上の運転資金も用意しておくと安心です。また、それとは別に自分の生活費も蓄えておくようにしましょう。
開業費用を抑える方法としては、居抜き物件を探す、シェアキッチンに入居する、間借り営業からスタートする、などが考えられます。厨房や店舗に必要な機器を中古で購入するのもひとつの方法です。
資金の調達方法
開業するにあたって大きな壁となる資金問題。ただ、開業資金全額を全て自己資金でまかなう人はほとんどいません。多くの人が自己資金を担保にして、さまざまな方法で調達しているのが現状です。
例えば、資金の調達方法は以下のような方法があります。
- 専門機関から融資を受ける
- 金融機関から借りる
- クラウドファンディングを活用する
- 地方公共団体の制度融資を活用する
最も代表的な方法は、日本政策金融公庫からの融資です。日本政策金融公庫とは、国が100%出資している一種の金融機関で、個人事業主から法人まで幅広く融資を受けることができます。
自己資金は一定額持っていた方が返済できる力があると見なされ、融資を受けやすくなりますが、条件によっては自己資金0円でも受けられるものもあります。ただ、いずれの場合にせよ、その事業の安定性が感じられなければ融資は成り立ちません。しっかりと事業計画を練った上で相談しに行くようにしましょう。
自己資金はいくらあればよいのか?
自己資金があった方が融資を受けやすくなるとお伝えしました。金融機関から借りる場合も同様です。では、どの程度の自己資金があればよいのでしょうか?
一般的には開業資金の2〜3割と言われています。例えば開業資金が1,000万円かかるのであれば、200〜300万円程度です。
自己資金があれば、返済しなければならない金額も少なくなり、長期的にも負担が軽くなります。できるだけ貯金するなどして、貯めておくようにしておきましょう。
補助金・助成金も活用しよう
国や地方公共団体は事業者にたいして資金的なサポートを行うため、補助金や助成金を給付しています。補助金や助成金はさまざまな種類があり、飲食業界向けや新規開業者向けのものもあります。
注意しなければならないのは、補助金や助成金はあくまで発生した経費の何割かを負担してくれるものであり、事前に支給される資金ではありません。また、給付されるためには事業計画書が必要です。興味のある方は管轄の団体や商工会議所などに相談してみるとよいでしょう。
補助金・助成金についてより詳しく知りたい方は「飲食店が使える給付金 2024年版|補助金や助成金との違いや事例も紹介」を併せてご覧ください。
ケーキ屋の開業を成功させるための秘訣
ケーキ屋を開業させたとしても、簡単に成功できるほど甘い世界ではありません。これからケーキ屋を開業する人に大切な成功の秘訣を3つに絞ってお伝えします。
地域のニーズに合ったケーキを作る
ケーキ屋は、基本的に近隣の顧客がターゲットとなります。そのため、安定的な売上を獲得するためには周辺に住む人たちの属性に合ったケーキを販売することが大切です。
例えば、高齢者が多い街の中でキャラクターを用いたケーキが売れるでしょうか?子供の多い街の中でお洒落でデザイン性の高いケーキが売れるでしょうか?
基本的なことではありますが、その地域の特性を掴みながらニーズに合う商品を提供することが安定的な売上を維持するためには重要です。
季節限定品やお祝いメニューを充実させる
レギュラーメニューのラインナップやクオリティを充実させることは当然大切なことですが、さらに季節限定メニューやお祝い用のメニューに注力するとスポットでの売上を飛躍的に伸ばすことができます。
ケーキは毎日食べるというよりも、お祝いのときなど特別なタイミングに購入する人が多い商材です。誕生日や記念日、桜や夏の海、こどもの日やバレンタインなどさまざまなシーンに合わせて限定商品を考案しましょう。
デジタルツールを活用する
ケーキ屋の業務内容は、ケーキを調理するだけでなく、レジでのお会計やおすすめのご案内などの接客全般、店舗内の掃除や経理などの事務作業など多岐に渡ります。ケーキ屋を開業すると日々の業務に追われて本来注力すべきレシピの開発や顧客満足向上に繋がるおもてなしがおろそかになりがちです。
そこで大切なのが、業務効率化です。特に近年業務効率化に有効として注目されているのがデジタルツールの活用です。例えば、会計をキャッシュレスにすればお釣りの受け渡しを省略できたり、売上の集計も毎日手入力する必要がなくなるなど業務負担が大幅に軽減されます。
デジタルツールの導入はコストが発生しますが、業務効率によって生まれる時間や労力は新しいサービスやクオリティ向上に繋げることができます。結果的に売上が向上すればコストも相殺できるでしょう。
より詳しくデジタルツールの活用について知りたい方は「飲食店DX成功事例8選|企業がデジタル化に取り組むメリットも紹介」をご参考ください。
まとめ
今回はケーキ屋の開業について解説しました。最後にポイントをまとめます。
- ケーキ屋開業に至るまでの代表的な3つのケース
・ケーキ屋で働く
・製菓専門学校で学ぶ
・独学で学ぶ
- 専門学校や店舗での経験は必須ではないが成功の可能性を高められる
- ケーキ屋を開業するまでの一般的なステップ
- コンセプト・事業計画を考える
- 物件を探す
- メニューを考える
- 設備・環境を整える
- 人材採用・教育をする
- 宣伝・告知をする
- 開業!
- ケーキ屋を開業する4︎つの方法
テイクアウト+イートイン
テイクアウト専門
デリバリー専門(シェアキッチン)
間借り
- ケーキ屋の開業に取得すべき資格・許可
食品衛生責任者
菓子製造許可
飲食店営業許可
- ケーキ屋の開業資金は資金調達する前提で計画するのが一般的
- 最も多い調達方法は日本政策金融公庫
- 資金調達するために自己資金も一定の割合で必要
- ケーキ屋は地域の属性に合わせて商品開発した方がよい
- 季節商品やお祝いメニューも充実させよう
- 業務効率化にデジタルツールの導入も検討すべき
ケーキは今後も日本の食文化に根付く代表的なスイーツであることは変わりないでしょう。ケーキ屋としての開業方法はいくつもあり、成功するためには時代のニーズや背景も考慮しながら、臨機応変に対応していくことが大切です。
国内にはケーキ屋もたくさんありますが、まだまだ可能性を秘めている業界です。興味のある方は情報収集を行った上で、開業を実現していきましょう。