ワンオペは、大手飲食チェーンを中心にアイドルタイムや早朝・深夜に敷かれる勤務体系として広まりました。最近では、ワンオペなどの少人数・小規模で飲食店を開業したい人もおり、飲食業界では一般的な業態としても定着しています。
「ワンオペで飲食店の経営なんて本当にできるのだろうか・・・?」
「ワンオペって、いろいろ困ることもあるのでは?」
そう不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ワンオペの飲食店は経営しやすい面もあれば、注意しなければならない点もあります。
そこで今回は1人で飲食店を開業したい人に向けて、ワンオペ飲食店のメリットやデメリットやワンオペの飲食店を成功させるためのコツを紹介します。さらにワンオペに向いている業態や実際の成功事例もまとめますのでぜひ最後までご覧ください。
ワンオペ飲食店とは
ワンオペとは、「ワンオペレーション」を略した用語で、飲食店の営業を従業員が1人で回していくことをいいます。
かつてのワンオペといえば、大手飲食チェーンが効率的な経営を実現するために早朝や深夜帯などのアイドルタイムに従業員を1人だけ配置して営業するというのが一般的でした。
ただこの手法は人件費を抑制できるものの、セキュリティ面の脆弱性や労働環境の過酷さなどが問題となり、廃止した方がよいという論調も生まれています。(参考:「すき家、朝の時間帯も複数人勤務に 従業員死亡受け」日本経済新聞)
一方で最近では、小規模で飲食店を開業したいという人もおり、ワンオペ営業で飲食店を経営するケースもよく見られるようになりました。
1人で開業すれば、自由度が高いだけでなく、初期投資や運営コストを抑えられるなどさまざまなメリットがあります。ただ、その反面注意すべきデメリットもあります。
次章から具体的にそのメリットやデメリットについてまとめていきます。
ワンオペ飲食店の5つのメリット
ワンオペ飲食店のメリットは主に以下の5つが挙げられます。
- 何事も自由に決められる
- 人件費が抑えられる
- 小規模で開業可能
- 人手不足問題が解決できる
- 長時間営業が実現できる(大手チェーン)
それぞれ解説します。
何事も自由に決められる
ワンオペでの飲食店営業は、周りの人に合わせる必要がなく、自分のペースで自由に動くことができます。開業から1人で行う場合は、コンセプトから料理メニュー、物件やインテリアなど全て自分で決めることができます。
「全て自分の思うように動いていきたい」という人にはピッタリな営業形態といえるでしょう。
人件費が抑えられる
ワンオペの飲食店は1人で営業するため、無駄な人件費がかかりません。
飲食店の売上を考える上で人件費と食材費を合わせた「FLコスト」の比率が重要です。理想的なFLコスト比率は売上の6割と言われていますが、ワンオペの飲食店は人件費を抑えられることによってこの比率を大幅に下げることができるのです。
FLコストについてより詳しく知りたい方は、「飲食店の人件費率の最適解とは?FLコストの重要性や計算方法を紹介」を併せてご覧ください。
小規模で開業可能
ワンオペの飲食店は規模の小さな物件で営業することができます。規模が小さいと、高額な費用になりがちな賃料や施工工事を安く抑えられます。また、食材やドリンクなどの原価や、食器や消耗品などの什器や備品も最小限の量で済み、水光熱費も抑えられます。
このような固定費や変動費を抑えられることで損益分岐点も低くなるため、通常の飲食店よりも開業しやすいといえるでしょう。
人手不足問題が解決できる
コロナ禍以降、飲食業界は人手不足の問題が深刻化しています。特に非正規社員の人手不足が深刻で、コロナ禍以降で人手不足と感じる企業は高い水準で推移し、2022年比で見ても未だに増加しています。
(引用:「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」帝国データバンク)
このように人手不足に悩まされる飲食店が多い中で、ワンオペの飲食店は雇用の必要がなく、人材に悩まされるようなことがありません。また、採用活動に必要な労力や費用も不要なので、その分営業に集中することができます。
長時間営業が実現できる(大手チェーン)
これは大手飲食チェーンに限られますが、アイドルタイムにワンオペで営業することで人件費を抑えながら効率的な営業が実現できます。
ランチとディナーの合間や、早朝や深夜などのアイドルタイムは集客しづらい時間帯です。そこで数人の従業員が働いていると、売上に対して人件費率が上昇し、利益を圧迫します。また、アイドルタイムも賃料は発生しているためこの時間帯をどう活かすかは飲食店にとって重要な問題といえます。
これらの時間にワンオペで対応することで人件費を抑制したり、早朝や深夜に渡って長時間営業を実現できるなど、利益率の向上や売上アップにも繋がります。
ワンオペ飲食店の4つのデメリット
逆にワンオペ飲食店のデメリットはどのようなものが考えられるでしょうか?主に以下の4つが挙げられます。
- トラブル発生時の対応が困難
- 体調不良や緊急の用事があっても休めない
- 大量の注文を受けることができない
- オペレーション重視でおもてなしが欠けてしまう
それぞれ解説します。
トラブル発生時の対応が困難
ワンオペで営業していると、トラブルが発生したときの対応が困難になります。例えば営業中に機材や設備に故障があった場合、業者に連絡することはできますがその対応をしているとお客様を待たせてしまうことになります。
数人いればすぐに済ませられるようなトラブルでも、ワンオペでは全て1人で対応しなければならないため時間がかかり、お客様に迷惑をかけてしまいます。
体調不良や緊急の用事があっても休めない
1人での営業は自由度が高くて人間関係のストレスはありませんが、代わりとなる人材がいません。そのため、体調不良や緊急の用事が発生しても営業を休むことができません。
大量の注文を受けることができない
ワンオペの飲食店はマンパワーがないため料理やドリンクなど提供できる量に限界があり、大量の注文を受け付けることができません。そのため、顧客が「注文したいのに受け付けてもらえなかった」という機会損失を生んでしまったり、売上にも上限があります。
オペレーション重視でおもてなしが欠けてしまう
円滑なオペレーションは、ワンオペの飲食店にとって非常に重要です。しかし、オペレーションを重視するあまり、おもてなしがおざなりになってしまうことがあります。
例えば一組の顧客に対して料理やメニューの説明を行っているときは、他のお客様に出さなければならない料理やドリンクの提供がストップします。逆に料理やドリンクの提供に注力しているときは、来客時のご案内やメニューの説明ができなくなります。
顧客全員に不満を与えず満足していただくためには、全体をスムーズに回していくための動きをしていかなければならないのです。円滑に動きながら、おもてなしや顧客とのコミュニケーションをいかにとっていくかは、重要な課題となるでしょう。
ワンオペに向いている飲食店業態3選
それでは実際にどのような飲食店がワンオペに向いているのでしょうか?具体的には以下のような業態が挙げられます。
- カレー屋
- 立ち食いそば・うどん
- 居酒屋・レストラン
それぞれ解説します。
カレー屋
昔から日本で親しまれている料理、カレー。近年、スパイス料理が流行する中でカレーもさまざまな進化を遂げ、人気が再燃しています。
カレーは大量のスパイスを使用したり、煮込みの時間が長時間必要など丁寧な仕込みが必要ですが、提供時は工程が少なく、ワンオペでもスムーズに提供しやすい業態といえるでしょう。
顧客が食べ終わるスピードも早いため高い回転率に期待ができます。
立ち食いそば・うどん
立ち食いそば・うどんもカレーと同様、ワンオペに向いている業態です。営業に向けてスープを作ったり揚げ物の準備をしたりと仕込みは必要ですが、営業時のオペレーションはシンプルです。
顧客はスタンディングのためイートインスペースは小さくてよく、調理場も小規模で調理可能です。大手チェーンの立ち食いそば屋を見ると厨房とホールで分業しているところが多いですが、個人店ではワンオペで対応しているところも存在します。
居酒屋・レストラン
8〜10席の小規模であれば居酒屋・レストランも候補として挙げられます。
カレー屋や立ち食いそばよりは仕込みや営業時のオペレーションは複雑になりますが自分の思い描いている理想の料理やサービスでおもてなしをすることができます。
顧客との距離感が近く、リピーターも作りやすい環境といえるでしょう。
大切なのは、シンプルな工程・提供しやすさ
ワンオペに向いている業態としてカレー屋や立ち食いそば・うどんを例として挙げましたが、これらをまとめると「シンプルな工程・提供しやすさ」がひとつのポイントとなります。
ワンオペの飲食店は1人で全ての業務をこなさなければならないため、いかに早く効率的に料理やサービスを提供していくかが重要です。そのためには、調理工程や提供のしやすさは円滑なオペレーションに大きな影響を与える要素といえます。
ただ、3つ目に挙げた居酒屋・レストランのように本格的な料理やドリンク、サービスで営業していくことも可能です。自分がやっていきたいお店はどのようなお店なのか、コンセプトを明確にして判断してくとよいでしょう。
ワンオペ飲食店を成功させるためのコツ4選
どのような業態がワンオペの飲食店に向いているのかお伝えしましたが、その業態でやれば成功するかというとそう甘いものではありません。
では、ワンオペで飲食店を成功させるためには何が大切なのでしょうか?成功のコツを4つにまとめました。
- 1人で動けるオペレーションや設備を構築
- デジタルツールを活用する
- 小規模スペースで開業する
- コース限定などメニューを絞る
それぞれ解説します。
1人で動けるオペレーションや設備を構築
前章でも触れた通り、ワンオペで営業するためには、円滑なオペレーションが不可欠です。それを実現するためには、動きやすい環境や設備を整えておくことが重要です。
例えば開業前の工事の段階で、コンロの位置や調理器具を置く場所、食器やグラスの位置など全てスムーズに動けるような導線を徹底的に考えておくと、営業がスタートしてからも安心して動くことができるでしょう。
居抜きの物件であれば、シミュレーションを行いながら調理器具や設備を最適な位置に配置します。工事が必要な箇所もあるかもしれません。いかにスムーズに料理やドリンクを提供し、気持ちのよいサービスができるかを徹底的に考えることでワンオペの飲食店でも成功に近づくことができます。
デジタルツールを活用する
「デジタルツールは大手企業が活用するもの」
そんなイメージを持たれている方は少なくありません。ただ、デジタルツールは業務を効率化するためには非常に有効なため、ワンオペの飲食店だからこそ導入したい手法のひとつです。
例えば予約管理システムを導入して予約をウェブ上で受付られるようにしておけば、営業中に電話対応で時間を取られることがなくなります。また、会計でキャッシュレス対応を可能にすればレジでの対応時間を短縮することができます。
ただ、デジタルツールの導入はコストがかかるため、メリットと比較して導入するかどうかを判断しましょう。
小規模スペースで開業する
ワンオペで営業していく上で最適な規模の物件を選ぶことも重要です。物件の大きさは料理やサービス提供の導線に大きく関わってくるからです。
ワンオペにも関わらず「広々としたスペースでくつろいでほしい」という思いを優先して大きな物件で開業してしまうと、厨房から客席まで移動距離が長くなるなど全体の業務効率が悪くなります。
まずは自分が動きやすい最適な規模の物件を選ぶようにしましょう。その結果がきっと顧客満足度の向上に繋がるはずです。
コース限定などメニューを絞る
メニューの内容を工夫すると、効率的に料理やドリンクを提供できるようになります。例えば、コースを月替りの1本に絞る、同時刻一斉スタート制にする、などが考えられます。
「コース限定にすると料理を選ぶ楽しさが減少してしまうのでは…」と抵抗があるかもしれません。しかし、メニューを絞ることで料理やドリンクの品質向上に注力しやすくなったり提供スピードも上がるなど、ワンオペの飲食店にとって魅力的なメリットも多々あります。
ワンオペ営業の成功事例 | 5席でデジタル化して売上20%増!
最後に、ワンオペの飲食店として人気店になった成功事例を紹介します。
東京は東新宿にて、ワンオペ営業で5席のスタンディングと小規模ながら本格的な料理を提供しつづけて人気店となったカレー店があります。
それが、サンラサーです。
30食限定で連日満席。10食分のみを予約制にし、残りの20食はお並びいただくというスタイルで運営していましたが、予約の問い合わせ対応に手間がかかり、デジタル化の導入へと踏み切ります。
「「何時に何人で来たいのか分からないと、予約なんて取れるわけないじゃないか!」など、SNSでつい文句を言ってしまうようなことがありました。これはストレスのため過ぎだ、良くないなと……。」
コストが発生することに抵抗感を持ちつつも、気持ちよく店舗を運営するために予約管理システム「トレタ」を導入。ウェブ予約の受付を開始すると、予約受付の手間が減少しただけでなく、新規顧客が増えたといいます。
「新規のお客さまが予約をガンガン入れてくれている感じで、取りこぼしていた予約が減って毎日の売り上げが20%アップしました。」
回転率も向上し、デジタルツールのコストは2、3日の営業分で賄えるように。ワンオペでデジタルツールを上手に活用した好事例といえるでしょう。
▼この事例をより詳しく知りたい方はこちら
「抵抗のあったデジタル化に踏み切って予約を効率化!トレタ導入で毎日の売上高は20%増に!」
まとめ
今回はワンオペの飲食店について解説しました。最後にポイントをまとめます。
1章 ワンオペ飲食店とは
- ワンオペの飲食店は自由度が高いなどさまざまなメリットがある
- ワンオペの飲食店で成功できる可能性は大いにある
2章 ワンオペ飲食店の5つのメリット
- 何事も自由に決められる
- 人件費が抑えられる
- 小規模で開業可能
- 人手不足問題が解決できる
- 長時間営業が実現できる(大手チェーン)
3章 ワンオペ飲食店4つのデメリット
- トラブル発生時の対応が困難
- 体調不良や緊急の用事があっても休めない
- 大量の注文を受けることができない
- オペレーション重視でおもてなしが欠けてしまう
4章 ワンオペに向いている飲食店業態3選
- カレー屋
- 立ち食いそば・うどん
- 居酒屋・レストラン
5章 ワンオペ飲食店を成功させるためのコツ4選
- 1人で動けるオペレーションや設備を構築
- デジタルツールを活用する
- 小規模スペースで開業する
- コース限定などメニューを絞る
6章 ワンオペ営業の成功事例 | 5席のカレー店がデジタル化で売上20%増を実現!
- ワンオペでもデジタルツールを導入しながら売上アップを実現できる
大手飲食チェーンのワンオペによる営業は社会的に問題視された一面もありますが、飲食業界で独立する方法としては有効的で開業しやすい方法ともいえます。
ただ、気をつけなければならないデメリットもあることはお伝えした通りです。お客様に心置きなく楽しんでいただくために、円滑なオペレーションが実現できるような環境を整え、品質の高い料理とサービスを提供していくことが大切です。