インターネット、とくにスマートフォンの普及により、飲食店の情報は誰でも簡単に入手できるようになりました。
しかしお客様にとっての利便性があがる一方で、飲食店は競合店との競争が激化しています。
そのような状況下で飲食店が生き残るためには、「データに基づいた経営」を論理的におこなう必要があります。
なぜならデータをうまく活用することで、人手不足やコスト削減、集客など多くの問題を解決へ導けるからです。
本記事ではデータ活用の重要性や活用事例、データを活用することで解決できる問題について解説します。
トレタ予約台帳
累計19,000店舗以上の飲食店が導入する予約顧客管理システム。シンプルな画面設計でサクサク使いやすく、99.9%以上の安定稼動。業務効率化だけでなく、顧客情報を活用したおもてなしやネット予約の一元管理も可能です。
飲食店でデータを活用することの重要性
これまで多くの飲食店では、経験による「勘」に頼った経営をおこなってきました。
ところが根拠のないやり方では、慢性的な人手不足や、コロナ禍をきっかけに変化した顧客行動の変化などに対応するのは困難です。
またベテランの経営者であっても、自信を持って下した決断が間違っていることもあります。
しかしデータに基づいた経営をおこなっていれば、間違いの原因が特定しやすいため、迅速な軌道修正が可能です。
コロナ禍のように今後も起こり得る飲食業界の危機に対応するには、データの取得・活用は欠かせないと言えるでしょう。
では実際に飲食店が意識しておきたい「データ」はどういったものが該当するのでしょうか?
飲食店にとって重要なデータは主に下記の6点です。
- 予約データ
- 顧客データ
- 来店データ
- 注文データ
- 仕入れデータ
- 実績データ
これらのデータを活用することで飲食店にとってどんなメリットがあるのか、次から詳細に見ていきます。
データ活用の活用事例
成功事例1:顧客データを活用したターゲットの絞り込みが大成功|焼肉 肉の大山
「焼肉 肉の大山」は、緊急事態宣言の影響で2020年4月〜5月末ごろまで店舗の営業を休業し、その間、お弁当やお肉のセットのテイクアウト販売をスタートしました。
告知方法を検討した結果、お店のコアなファンに向けてSMS(ショートメッセージサービス)で送ることに決定。
SMSの送信先を絞り込む指標にしたのが、顧客データの来店回数、居住地域、性別などです。
結果は、送信したそばから問い合わせの電話が殺到するほどの大盛況。
お店を開けていた2019年の5月より、売上が上がる成果をあげました。
上記の成功のポイントは、顧客データを生かし、商品を求めている顧客だけにターゲットを絞ったことでしょう。
ターゲットを絞ることで、SMS送信にかかる費用や応対にかかる人件費が削減を実現し、売上を最大化することができました。
記事はこちら:https://toreta.in/case/2020-11-30/2509/
成功事例2:予約データを分析して経営を戦略的に|焼肉 稲田
「焼肉 稲田」は、毎月来店する1,800人〜2,000人のお客様のうち、約25%がリピーター、75%が新規顧客という、新規顧客をメインとしたお店です。
来店するお客様のデータを分析すると、平日はコース料理、土日はアラカルトの注文が多いことがわかりました。
その傾向についてさらに分析すると、平日は会社関係や接待、カップルの利用が多く、土日はファミリー層の利用が多いことが判明。
これらのデータがあることで、平日と土日で接客の方針を変えたり、メニューの提案に気を配ったりなど戦略をたてることが可能になり、顧客満足度の向上につながりました。
上記のように、顧客データを活用することで、客層の傾向や好みを把握できれば、料理の仕込みに無駄がなくなるため食材コストが抑えられます。
また、人員配置も的確におこなえるため、人件費の削減にもつながるでしょう。
記事はこちら:https://toreta.in/case/2015-10-06/2400/
データを活用することで、解決できる飲食店の問題
飲食店がデータを活用すると主に下記の問題が解決できます。
- 人手不足の問題
- コストの削減
- 集客
それぞれ具体的に解説します。
人手不足の問題
多くの飲食店にとって人手不足が深刻な問題です。
人手不足の状況では、サービスや料理の品質が低下してしまう可能性もあるでしょう。
そのような事態を防ぐためには、業務の効率化や、少ない人数で回せる仕組みを作る必要があります。
来店数や来店時間などがわかる「来店データ」や、「予約・顧客データ」があれば、シフトの調整が容易になるため、スタッフのリソースを効果的に集中させることが可能になるでしょう。
新型コロナウイルスの発生によって、飲食店の人手不足は拍車がかかり、その影響は今でも色濃く残っています。
状況は上向いてきているものの未だに深刻な人手不足の現状
帝国データバンクの発表によれば、2022年の時点で正社員が不足していると回答した飲食店は全体の6割超、非正規社員で7割超を記録し、全体でも上位に入るほどの状況です。(参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)」)
2023年に入り、新型コロナの影響もようやく収まり始めているものの、採用市場の急な回復は期待できず、現状備わっている人員で営業していかなければならない所が多いのではないでしょうか。
しかし、業務効率化や待遇など環境面の整備、助成金の活用など対策としてできることはたくさんあります。人手不足にも悲観的にならず、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
より詳しく人手不足について知りたい方は「飲食店の人手不足|閉店しないために必要な5つの解決策を解説」を併せてご覧ください。
コストの削減
利益を確保する上でコストの削減は重要です。
なぜなら、いくら売上が良くてもコストが高いと利益が残らないためです。
季節や天候、それに伴うお客様の来店数や注文履歴などのデータがあれば、仕入れの調整が容易になるため、仕入れコストが削減できます。
また、同様のデータからシフト調整もしやすくなるため、人件費削減にもつながるでしょう。
飲食店がコストを考える上で重要なFLコストとは
飲食店のコスト比率の中で最も重要な指標のひとつと言われているのが食材費と人件費です。これらを合わせてFLコストといいます。
FLコストは全体の60%程度に抑えるのが望ましいと言われています。例えば、食材費が全体の30%ならば人件費も30%に、食材費が40%ならば人件費は20%に、というバランスが望ましいということです。
食材費が低すぎれば料理の品質が劣って見えますし、人件費が低すぎれば営業を回していくことが難しくなったり、一人当たりの業務負担量が増えて離職率が上がってしまう可能性もあります。コストはただ下げればいいというものではありません。FLコストのバランスを意識しながら考えていくことが大切です。
FLコストについてより詳しく知りたい方は「飲食店の人件費率とは?FLコストを正しくコントロールする方法」を併せてご覧ください。
集客
飲食店の集客において、データの活用は必須事項です。
集客に関する施策はトライアンドエラーの繰り返しが基本となります。
施策に関するデータを積み重ねることで、売上や利益などの目標に近づいていくのです。
集客で結果を出すには、PDCAサイクルを回しながらデータを蓄積することが大切と言えるでしょう。
飲食店が集客を成功させるための秘訣
飲食店の集客は、HPを立ち上げたり、SNSを活用したり、チラシ配りやクーポン発行などさまざまな手法が考えられます。
集客を考えるとき、このような手法を実践していくことに目が行きがちですが、まずは顧客にもさまざまな層がいることを知っておくことが大切です。例えば、顧客は非認知層、潜在層、顕在層、顧客層などに分類ができ、どの層に向けてアプローチするかで手法は変わります。
また、自分たちの現状を振り返ることも重要です。売れ行きのいいメニューは何か、リピーター率はどの程度か、どの時間帯が人気なのか、店舗のあるエリアにはどのような顧客層が多いのか、多くの情報をまとめましょう。日々の営業に追われていると、こうした情報は感覚として掴んでいるかもしれませんが、データとも照らし合わせて見てみると客観的な事実として捉えることができます。
こうした情報を整理した上で戦略を練っていくことが大きなポイントになります。具体的な手法は戦略の上に成り立ちます。思いついた手法を闇雲に行っていくのではなく、ターゲットや自店舗の現状を踏まえた上で集客について考えることが成功の秘訣です。
集客についてより詳しく知りたい方は「飲食店の集客|すぐに実践できる8つのアイディアと売上UPのコツ」を併せてご覧ください。
3つの課題をデータの活用で考えてみる
前章で挙げた「人手不足」「コスト削減」「集客」について、どのようにデータを活用できるのかを具体的に考えていきます。
- 初級編
- 自店の収益構造を可視化してみる
- 応用編
- データを活用してメニューの開発や削除を検討してみる
- 人手不足をデータを活用して考えてみる
- コスト削減をデータを活用して考えてみる
- 集客方法の最適化について考えてみる
データを活用することでできることはたくさんありますが、まずは「データを活用する」ことの大切さを学んでいただくために、まずはABC分析で自店の収益構造を可視化してみましょう。
データ活用についてさらに深く知りたい場合は中級編へ進んでください。
まずは初級編から順に解説していきます。
飲食店の収益構造を可視化できるABC分析
画像引用:DATA VIZ LAB
ABC分析とは、売上高や粗利率などからメニューをABCという3つの優先度にランク分けし、店舗の販促や利益率を改善するための分析手法です。
ABC分析を用いれば、これまで根拠のなかった「なんとなく売れている」を数値化することができます。
ABC分析をおこなうには、まずメニューの「単価」「販売数」「売上高」を設定します。
さらに下記の計算式で「売上構成比」を算出します。
メニュー単品の売上高÷全メニューの売上高×100=売上構成比
この4つの要素がABC分析のベースです。
イメージを掴みやすいように、例を挙げて解説していきます。
<ABC分析のベース例>
メニュー名 | 単価(円) | 販売数(個) | 売上高(円) | 累計売上高(円) | 売上構成比(%) |
旬魚のカルパッチョ | 900 | 300 | 270,000 | 270,000 | 32.6 |
合鴨の燻製 | 1000 | 150 | 150,000 | 420,000 | 18.1 |
生ハム | 800 | 200 | 160,000 | 580,000 | 19.3 |
ローストビーフ | 1100 | 100 | 110,000 | 690,000 | 13.3 |
チーズ盛り合わせ | 850 | 50 | 42,500 | 732,500 | 5.1 |
田舎風パテ | 1200 | 80 | 96,000 | 828,500 | 11.6 |
次に売上高の高い順に並べ替え、累計売上高構成比を算出します。
累計売上高構成比は下記の計算式を使用します。
累計売上高÷全メニューの売上高×100=累計売上高構成比
メニュー名 | 単価(円) | 販売数(個) | 売上高(円) | 累計売上高(円) | 売上構成比(%) | 累計売上高構成比(%) |
旬魚のカルパッチョ | 900 | 300 | 270,000 | 270,000 | 32.6 | 32.6 |
生ハム | 800 | 200 | 160,000 | 430,000 | 19.3 | 51.9 |
合鴨の燻製 | 1000 | 150 | 150,000 | 580,000 | 18.1 | 70.0 |
ローストビーフ | 1100 | 100 | 110,000 | 690,000 | 13.3 | 83.3 |
田舎風パテ | 1200 | 80 | 96,000 | 786,000 | 11.6 | 94.9 |
チーズ盛り合わせ | 850 | 50 | 42,500 | 828,500 | 5.1 | 100 |
累計売上高構成比をもとにABCのランクに分けていきます。
多くの場合、0%〜70%未満をAランク、70%〜90%未満をBランク、90%〜100%をCランクに設定するため、今回も下記の表にて、そのように振り分けました。
メニュー名 | 単価(円) | 販売数(個) | 売上高(円) | 累計売上高(円) | 売上構成比(%) | 累計売上高構成比(%) | ランク(ABC) |
旬魚のカルパッチョ | 900 | 300 | 270,000 | 270,000 | 32.6 | 32.6 | A |
生ハム | 800 | 200 | 160,000 | 430,000 | 19.3 | 51.9 | A |
合鴨の燻製 | 1000 | 150 | 150,000 | 580,000 | 18.1 | 70.0 | B |
ローストビーフ | 1100 | 100 | 110,000 | 690,000 | 13.3 | 83.3 | B |
田舎風パテ | 1200 | 80 | 96,000 | 786,000 | 11.6 | 94.9 | C |
チーズ盛り合わせ | 850 | 50 | 42,500 | 828,500 | 5.1 | 100 | C |
ランクによるメニュー全体の中での立ち位置は下記の通りです。
Aランク
お店を支えている主力メニュー。
スムーズに提供できるよう仕込みやオペレーションに気を配り、売り切れないよう注意する。
類似メニューや派生メニューを増やしても売れる可能性が高い。
Bランク
それほどお店に貢献していないサブメニュー。
Aランクを目指し、内容の改良や販促に力を入れる。
Aランクに比べ注文数が少ないため、食材ロスがでないように注意する。
Cランク
ほとんどお店への影響力がない不人気メニュー。
お店の足を引っ張っている可能性がある。
放置するほどマイナス要素が増えるので、すぐに改善を試みたほうが良い。
このように自店の収益構造を可視化し、ランクを振り分けることで、適切な戦略を立てることが可能になります。
「ABC分析のデータ」を活用してメニュー開発や削除を検討してみる
ABC分析で出たデータをもとにしたメニュー開発は、効率よく売上を上げるための手段として有効です。
メニュー開発の方向性をAランクのメニューに関連するものに向ければ、「売れるメニュー」を量産できる可能性があります。
そのほか、メニュー開発をAランクの上位に位置するメニューに焦点を合わせ展開することで、お店の強みが強調され、集客に良い影響を与えることもあります。
また売上を上げるには、売れないメニューを削除することも大切です。
売れないメニューは余計な在庫が発生を招き、食材コストの上昇につながります。
Bランクの下位やCランクのメニューは改善を試み、効果が見込めない場合は削除しましょう。
人手不足について「来店データ」を活用して考えてみる
来店データを分析すれば、どの曜日の、どの時間帯が繁忙時間帯なのかがわかるため、人手不足の問題が解決する可能性があります。
お客様の少ない曜日や時間帯は最小人数で業務に取り組み、忙しい曜日の繁忙時間帯に人手を集めると少ないスタッフでもお店を回すことが可能になるでしょう。
コスト削減について「注文データ」や「仕入れデータ」を活用して考えてみる
上記の来店データの活用に加え、これまでの注文データを分析し、メニューごとの注文数を把握すると、食材の発注に無駄がなくなるためコストが削減できます。
また仕入れに関するデータが管理できていると、食材等に価格変動があった際、すぐに気付けるため、ほかの食材に切り替えるなど食材コストの上昇を抑えることも可能です。
そのほか、来店データや過去の発注記録を活用し、食材ロスを回避する「発注の自動化」に取り組んでいるお店もあります。
「顧客データ」や「実績データ」を活用して集客方法の最適化について考えてみる
顧客の年齢や性別、その他の属性のデータは集客に活用できます。
これらのデータを分析することで、顧客層や売れやすいメニュー、来店する時間帯などの予測が可能になります。
たとえば、ランチタイムに子ども連れの女性客が多い場合は、子ども用チェアーやトイレにオムツ変え台があることをアピールする。
ディナータイムにカップル客が多い場合は一転して、おしゃれな雰囲気を強調するなど、効果的な戦略が立てられます。
さらにこれまでおこなったイベントやキャンペーンの集客効果や売上、ホームページやSNSでの発信に対する反応などのデータを活用すれば、集客方法の最適化が図れるでしょう。
まとめ|データを活用して合理的に問題を解決しよう
飲食店のデータ活用について解説してきました。改めて本記事の要点をまとめてみます。
飲食店でデータを活用することの意味
- 経験による「勘」にたよった経営からの脱却できる
- 顧客行動の変化に対応できる
- 問題が発生しても原因を特定しやすい
飲食店で重要なデータ
- 予約データ
- 顧客データ
- 来店データ
- 注文データ
- 仕入れデータ
- 実績データ
データを活用することで解決できる問題
- 人手不足の問題
- コストの削減
- 集客
ABC分析を用いれば飲食店の収益構造を可視化できる
ABC分析はメニュー開発の方向性や削除候補の決定にも活用できる
データが重要と分かっていても、飲食業界には勘に頼って行動する方がまだまだ大勢いるのが現実です。「勘」や「思いつき」はクリエイティブな作業をおこなう上では必要な要素と言えますが、経営となるとそうはいきません。
データを蓄積し、分析することでお客様が求めていることや、お店の課題が明確になります。
とはいえ、なにから手をつければよいのか分からない方もいるでしょう。
ますはデータ活用の第一歩として、自店の収益構造を理解するためのABC分析から始めてみてはいかがでしょうか?