近年、中食が世間に定着した影響もあり、「飲食店事業とは別に、お弁当ビジネスを始めたい」「現在の仕事を退職してお弁当屋さんを開業したい」と考える方が増えつつあります。
本記事では、お弁当屋さんを始めるメリットや具体的な方法、費用、オープンするまでの手順など、開業に関わる情報をわかりやすく解説します。
お弁当で人々を喜ばせたい、地域に根ざしたお弁当屋さんを開業したいと思っている方はぜひ参考にしてください。
お弁当屋さんを取り巻く現状
コロナ禍を経て、お弁当を含む中食の需要は急速に伸びています。
中食産業の市場規模は、現在も成長を続けており、日本惣菜協会のデータ(下記表)によると、市場は今後も拡大を続けると予想されています。
この市場の拡大は、お弁当屋さんの開業にとって非常に良い兆しを示しており、起業家や料理愛好者にとっては絶好のチャンスと言えるでしょう。
画像引用:一般社団法人日本惣菜協会|2023年版 惣菜白書(ダイジェスト版)
また、画像に示されたデータを見ると、中食市場の拡大はほぼ確実で、特に弁当や惣菜が日常的な消費行動として定着していることが伺えます。
さらに、中食市場の拡大は、地域社会における食の安全性や健康への配慮、さらには地域経済への貢献といった社会的な価値に影響を及ぼします。
中食市場が拡大することで、地域の生産者と消費者をつなぐ役割も果たし、食材の流通から消費に至るまでのサイクルを健全なものに保ちます。
以上の情報から、お弁当屋さんを開業することは、ビジネスとしてのみならず、「地域社会における新たな価値の創造」と言えるでしょう。
これは、新たな飲食業の形態としてお弁当屋さんの存在が今後ますます重要になることを意味しています。
お弁当屋さんを開業するメリット
お弁当屋さんは、現代のライフスタイルにマッチしたビジネスモデルです。
お弁当屋さんを開業する具体的なメリットは主に4つあります。
- 消費者の購入機会が多い
- コロナ禍などの外食規制があっても営業できる
- 軽減税率の対象になる
- 店舗を持つよりも小規模・低資金で始められる
それぞれ詳しく解説していきます。
消費者の購入機会が多い
消費者の食生活の中で、お弁当は便利で栄養バランスが取れた食事として広く受け入れられています。
画像引用:一般社団法人日本惣菜協会|2023年版 惣菜白書(ダイジェスト版)
上記画像データによれば、お弁当は他の持ち帰り惣菜に比べて一定の需要があり、特に働く人々のランチタイムにおける選択肢としての位置づけは不動のものです。
人気の理由は、手軽で健康的、かつ経済的な食事という消費者の基本的なニーズに応えているためでしょう。
また、日々の献立に頭を悩ますことなく、バラエティ豊かなメニューから選べることも、お弁当屋さんの強みです。
コロナ禍などの外食規制があっても営業できる
コロナ禍の影響により、多くの飲食店が営業時間の短縮や休業を余儀なくされたのは、まだ記憶に新しい出来事です。
しかし、そのような状況においても、お弁当屋さんは「持ち帰り」という特性を生かし、経済的な打撃を最小限に抑えることが可能でした。
飲食店での食事や、外出自粛が求められる状況でも、安全な手段を通じて商品を提供できたためです。
このように、お弁当屋さんは先の状況が読みにくい不確実な時代においても、柔軟に対応しやすい経営の形態を持っていると言えます。
軽減税率の対象になる
消費税の軽減税率制度は、食品に関連するビジネスにとって大きなメリットをもたらします。
この制度のもと、お弁当屋さんは消費税が軽減されるため、より低い価格で商品を消費者に提供することが可能です。
これにより、価格競争力を持ちながらも利益を出しやすくなるため、ビジネスとしての持続可能性が高まります。
店舗を持つよりも小規模・低資金で始められる
店舗を構えることなく、キッチンカーやデリバリー専門といった形態でお弁当屋さんを開業することは、通常の店舗を持つよりも非常に経済的です。
初期投資に必要な資金を大幅に削減できるだけでなく、固定費も最小限に抑えられます。
また、場所に固執せず、消費者の動向やイベントなどに応じて柔軟に対応できる点も、無店舗型のお弁当屋さんの大きな利点です。
小規模からでも、品質の高い料理とサービスを提供できれば、顧客基盤をしっかりと築くことが可能となり、事業の成長につなげることができるでしょう。
お弁当屋さんの営業スタイルと資金の目安
お弁当屋さんを開業する際には、営業スタイルを慎重に選ぶことが重要です。
それぞれのスタイルには異なる特徴があり、開業と運営に必要な資金も大きく変わります。
ここでは「店舗型」「移動販売型」「無店舗型」という3つの営業スタイルと、それぞれの資金の目安について解説します。
尚、運転資金については、さまざまな要素により金額が大きく変化するため、ここで紹介する初期費用には含まれていません。
店舗型
店舗型のお弁当屋さんとは、一定の場所に物理的な店舗を構えるスタイルのことです。
顧客は店舗を訪れて直接購入するため、立地が非常に重要な要素となります。
したがって、街の中心部やオフィス街、住宅地の近くなど、人通りの多い場所を選ぶことが一般的です。
初期費用には家賃、内装、厨房設備、初期在庫、人件費などが含まれるため、一般的には600万円から1,200万円ほど必要とされています。
ただし、地域や店舗の規模、内装の豪華さなどによって大きく変動するため、個々のビジネスプランに合わせて詳細な資金計画を立てる必要があります。
移動販売型(キッチンカー等)
移動販売型、特にキッチンカーを使用したビジネスモデルは、場所を選ばずに営業できるため、自由度が高いのが魅力です。
イベントやフェスティバル、公園やビーチなど、さまざまなロケーションで商品を販売できます。
キッチンカーの購入やカスタマイズに必要な費用は、新車であれば300万円から、中古車であれば200万円からが目安です。
加えて、原材料費やガソリン代、イベントへの出店料などの運営費用を考慮する必要があります。
キッチンカーの開業については「キッチンカー・移動販売の開業ガイド|必要な準備・ポイントを解説」を併せてご覧ください。
無店舗型(デリバリー専門型)
最も初期投資を抑えられるのが、無店舗型、つまりデリバリー専門のお弁当屋さんです。
このモデルでは、自宅のキッチンやレンタルキッチンを利用して調理し、オンラインプラットフォーム等を通じて注文を受け、配達をおこないます。
自宅等を活用し、厨房設備や初期在庫、配達員の人件費だけ必要な状態なら約100万円からと低コストでの開業が可能です。
しかし、配達用の車両がない場合は、この費用に車の購入やレンタル代が加算されます。
お弁当屋さん開業に必要な資格や手続き
お弁当屋さん開業の際は、飲食店と同様に食品に関連する資格や許可が求められます。
必須となるのは、「食品衛生責任者」と「飲食店営業許可」です。
そのほか、お店の規模や商品によって必要とされる資格や手続きが異なります。
この章では、これらの資格や許可について詳しく解説していきます。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、食品取り扱い業務に従事する全ての施設において義務付けられている資格です。
食品衛生法に基づいて指定され、食品の安全管理を担当する重要な役割を果たします。
資格を取得するためには、公的機関が提供する研修を受け、試験に合格しなければなりません。
食品衛生責任者は、衛生的な食品取り扱いと、適切な保存方法や温度管理など、食品衛生に関する広範な知識を有していることが求められます。
また、食中毒発生時の対応策や、従業員への衛生教育もこの責任者の役割に含まれるため、開業前にこの資格を取得しておくことは極めて重要です。
飲食店営業許可
飲食店だけでなく、お弁当屋さんを営業するには、店舗地域を管轄する保健所からの飲食店営業許可を取得する必要があります。
許可を得るためには、食品衛生責任者の資格に加え、適切な厨房設備、十分な換気システム、清潔で安全な水道水の確保、適切なゴミ処理方法など、多くの衛生的要件を満たさなければなりません。
営業許可の申請には、施設の平面図やメニューの提出、場合によっては実際の調理過程のデモンストレーションが必要となることもあります。
これらの手続きは時間がかかることがあるため、開業計画の初期段階で取り組むほうが良いでしょう。
その他の資格・届出
調理師免許
調理師免許は、プロフェッショナルな料理の知識と技術を有する者が取得する国家資格です。
お弁当屋さんでの調理師免許の必要性は、それほど高くありませんが、専門的な料理を提供する際は、信頼性が向上するためおすすめです。
調理師免許を持つスタッフがいることは、顧客に対してお店の専門性を示す証となり、信頼を築く上で有利に働くことがあります。
また、調理師免許を取得していれば、先に紹介した食品衛生責任の講習が免除されるため、開業がよりスムーズにおこなえます。
そうざい製造業
小規模なお弁当屋さんであれば、そうざい製造業の許可は必ずしも必要ではない場合もあります。
特に、注文を受けてから調理をおこない、直接顧客に提供するようなスタイルの場合は、飲食店営業許可のみで運営が可能です。
しかし、ビジネスが成長し、製造業としての側面が強くなるにつれて、そうざい製造業の許可が必要になるケースも出てきます。
お弁当屋さんがそうざい製造業の許可を必要とするのは、以下のような場合です。
- 大量生産:お弁当を大量に生産し、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど、第三者を通じて販売する場合。
- 配達サービス:大規模な配達サービスを展開し、お弁当を事前に大量に準備する場合。
- 多品目の製造:一定の規模を超える多品目のお弁当や惣菜を製造する場合。
そうざい製造業の資格が必要がどうかの判断基準は、自治体によって異なるため、事前に該当地域の保健所へ問い合わせるようにしましょう。
お弁当屋さんを含む飲食店の開業に関する資格や届出についての詳細は「飲食店開業に必要な資格や手続きとは|開店までの流れを6ステップで解説」を併せてご覧ください。
お弁当屋さんを開業するまでの流れを6ステップで解説
お弁当屋を成功させるには、正しい方法で開業することが重要です。
この章では、下記のステップに沿って開業の流れを紹介します。
- コンセプトを考える
- 営業スタイルに応じて物件を決める
- 資金を調達する
- 外装・内装・設備工事をおこなう
- 調理機器や備品等を揃える
- 営業許可申請をする
それぞれステップ順に詳しく解説していきます。
STEP1.コンセプトを考える
お弁当屋さんにとってコンセプトは、その店の象徴とも言える重要な要素です。
ターゲット市場を特定し、どのような食品を提供するか、どのような価格帯で提供するか、どのような独自性や特徴を打ち出すかを決めていきます。
健康志向のお弁当、伝統的な和食、地元の食材を活かしたメニューなど、あなたの情熱や市場のニーズに合ったコンセプトを考えましょう。
さらにこの段階で、食品衛生責任者の資格など、事業運営に必要な資格の取得にも着手します。
ターゲット顧客の考え方について詳しくは「効果的な集客方法23選!ターゲットや失敗しないポイントも解説」を併せてご覧ください。
STEP2.営業スタイルに応じて物件を決める
店舗型、移動販売型、無店舗型(デリバリー専門型)など、営業スタイルに応じて最適な物件を選びます。
立地はビジネス成功のカギを握ります。
店舗型の場合は人通りが多く、ターゲット顧客が頻繁に訪れる場所を選ぶことが重要です。
また、移動販売型は、車両の購入や駐車場、厨房の確保がこの工程に当たります。
無店舗型に関しては、自宅で作るのか、厨房を借りるのかなどの条件によって、適正な物件が大きく異なります。
この営業スタイルは立地に売上が左右されにくいため、厨房や駐車場を借りる場合は、できる限り賃料の安い郊外などを選ぶと良いでしょう。
どの営業スタイルにおいても物件選びは、将来の拡張計画も考慮に入れつつ、予算内で最良の選択をすることが求められます。
STEP3.資金を調達する
資金計画を立て、必要な開業資金を確保します。
自己資金、家族や友人からの融資、銀行ローン、政府の補助金や助成金など、さまざまな資金調達方法を検討しましょう。
正確な予算計画を立て、予想外の出費にも対応できるよう余裕を持った資金計画が求められます。
補助金や助成金などについての詳細は「飲食店が使える給付金 2024年版|補助金や助成金との違いや事例も紹介」を併せてご覧ください。
STEP4.外装・内装・設備工事をおこなう
お店のブランドイメージに合った外装・内装のデザインをおこない、厨房設備を含む必要な設備の導入をおこないます。
効率的な作業フローと顧客の快適性を考慮した店舗レイアウトが重要です。
設計から施工まで、専門家と密接に協力してプロジェクトを進めましょう。
STEP5.調理機器や備品等を揃える
厨房機器、調理器具、包装材料、食器など、運営に必要な機器や備品を揃えます。
品質、耐久性、コストパフォーマンスを考慮し、ビジネスのニーズに合った製品選びが重要です。
また、効率的な調理とサービス提供のために、電子決済システムなどのデジタルツールの導入も検討してみましょう。
業務のデジタル化について詳しくは「飲食店でDX推進する効果は?7つのメリットや成功事例を紹介」を併せてご覧ください。
STEP6.営業許可申請をする
お弁当屋さんとして営業するために、管轄の保健所から飲食店営業許可を取得します。
前章の「お弁当屋さん開業に必要な資格や手続き」で解説した内容を確認し、申請をおこないましょう。
申請に必要な書類を早めに用意しておくと、手間取らずに申請できます。
これらのステップを丁寧に実行することで、お弁当屋さんの開業へと繋がります。
計画的に進めることで、スムーズな開業と事業の成功が見込めるでしょう。
お弁当屋さんを繁盛させるためのコツ
お弁当屋さんを成功させるためには、美味しいお弁当を作るだけでは不十分です。
繁盛するためには、以下のような戦略が有効です。
- 看板メニューを作る
- レジ業務の効率化を図る
- 自店のコンセプトにあった場所で販売する
- 客層に合わせて商品を展開することも考慮する
それぞれ具体的に解説していきます。
看板メニューを作る
お店を代表する看板メニューを作ることは、競合との差別化を図る上で非常に有効です。
看板メニューはお店の存在そのものを示し、口コミやSNSを通じて新しい顧客を引き寄せるきっかけとなります。
ユニークで記憶に残るような料理、または地元の食材を活かした料理など、他のお弁当屋さんと差別化できるメニューを開発しましょう。
看板メニューの作り方について詳しくは「飲食店の看板メニューは集客・売上に直結|効果の高い8つのポイント」を併せてご覧ください。
レジ業務の効率化を図る
レジ業務のスムーズさは、顧客満足度に直結する重要ポイントです。
特に昼時などは、会社の貴重な昼休憩の時間を利用して購入する顧客が多いため、迅速なレジ対応が求められます。
最新のPOSシステムの導入やキャッシュレス決済、事前注文・決済システムを活用することで、待ち時間を短縮し、顧客のストレスを軽減できます。
POSレジの導入方法について詳しくは「POSレジ入門 | 必要なアイテム・費用や失敗しない選び方を解説」を併せてご覧ください。
自店のコンセプトに合った場所で販売する
お弁当屋さんの立地は、成功を左右する重要な要素のひとつです。
ただし最適な販売場所は、お店のスタイルなどによって大きく異なります。
コンセプトやターゲット顧客に合った場所選びを心がけましょう。
例えば、オフィス街であれば、健康志向のお弁当が受けるかもしれませんし、学校や大学の近くであれば、リーズナブルでボリュームのあるメニューが好まれる傾向があります。
客層に合わせて商品を展開することも考慮する
看板メニューの作成は成功に欠かせませんが、ターゲットとする客層に合わせて、商品のラインナップを考えることも大切です。
年配の方向けには塩分控えめの健康的なお弁当、子ども向けには見た目が楽しいキャラクター弁当など、ニーズに合わせた商品開発をおこなうことで、幅広い顧客層を獲得できます。
顧客のニーズが把握できない場合は、アンケートがおすすめです。
アンケートから得られる顧客の率直な意見は、メニュー開発に役立ちます。
常に顧客の声に耳を傾け、時代の変化に合わせた商品とサービスの提供を心がけましょう。
アンケートを取る方法については「飲食店がアンケートを成功させる秘訣4選 | おすすめのツールも紹介」を併せてご覧ください。
まとめ|お弁当屋さんはライバルが多いため独自性が重要
本記事はお弁当屋さんの開業について詳しく解説してきました。改めて、重要なポイントをまとめていきます。
お弁当屋さんを取り巻く現状
- お弁当市場は拡大傾向にある
- お弁当ビジネスは、今後ますます重要になると予想される
お弁当屋さんを開業するメリット
- 消費者の購入機会が多い
- コロナ禍などの外食規制があっても営業できる
- 軽減税率の対象になる
- 店舗を持つよりも小規模・低資金で始められる
お弁当屋さんの営業スタイルと資金の目安(運転資金を除く)
店舗型
- 立地が重要。人通りの多い場所に店舗を構えた方が有利
- 初期費用の目安は400万円〜
移動販売型(キッチンカー等)
- 場所を選ばずに営業できるため、自由度が高い
- 初期費用の目安は200万円〜
無店舗型(デリバリー専門型)
- 車を所有している場合、最も初期投資を抑えられる
- 初期費用の目安は100万円〜(自宅等、家賃が不要の場合)
お弁当屋さん開業に必要な資格や手続き
- 食品衛生責任者
- 飲食店営業許可
- 調理師免許
- そうざい製造業
※調理師免許とそうざい製造業は必須ではないが、場合によっては必要
お弁当屋さんを開業するまでの流れ
- コンセプトを考える
- 営業スタイルに応じて物件を決める
- 資金を調達する
- 外装・内装・設備工事をおこなう
- 調理機器や備品等を揃える
- 営業許可申請をする
繁盛させるためのコツ
- 看板メニューを作る
- レジ業務の効率化を図る
- 自店のコンセプトにあった場所で販売する
- 客層に合わせて商品を展開することも考慮する
お弁当屋さんを開業し、繁盛させるためには、市場での独自性が非常に重要です。
競合が多い飲食業界において、お店を際立たせるには、個性的なコンセプトの開発、ターゲット顧客のニーズに合わせたメニュー提供、効率的なサービスの提供が欠かせません。
独自性を持ち、顧客の期待を超えるサービスを提供することで、競争の激しい市場で成功を収めることができます。
自分の情熱を形にし、地域社会に貢献するお弁当屋さんを目指しましょう。