2020年以降、コロナによる行動変容によって外食する人たちが減少しました。多くの飲食店が売上確保の方法を模索する中で、ECが注目され始めています。

ECとは簡単に言えばインターネット販売のことです。飲食店がECを活用すると、イートインの利益だけでなく、別方面からの売上を増やすことができます。商圏も全国に広がるため、集客がうまくいけば店舗の認知度も高まります。

しかし、飲食店がECに挑戦して成功するのは、簡単なことではありません。EC化に成功する飲食店もあれば、うまく伸びないままコストとマンパワーだけ浪費するという厳しい結果に終わる店舗もあります。

EC未経験の方にとっては「EC化で成功なんて本当にできる?」と不安に思われる方もいるでしょう。

そこで今回は、店舗商品のEC化を検討している方に向けて、成功するためのヒントをお伝えします。ECに関わる現在の市況感や始め方など基礎的な知識もまとめていますので、ぜひご参考ください。

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飲食店のEC化とは?

さて、飲食店にとってECはどのように活用できるものなのでしょうか。まずはECでできることをイメージしていただくために、飲食店がECで取り扱える商材を紹介します。

飲食店がECで売れるもの

飲食店がECで販売できる代表的なものは、下記の通りです。

料理
お店で人気の料理やおつまみなどを真空パックなどで包装し、販売します。購入した顧客の元には温めたり盛り付けるだけの状態で届くため、自宅で本格的な味が簡単に楽しめるというメリットがあります。
調味料
自家製ソースなどの調味料を専用の容器に詰めて販売します。顧客はお店の味付けを家で簡単に実現できるのが魅力です。手土産やギフトとしても選びやすい商材です。
オリジナルグッズ
食器やタオルなどに店舗のロゴを入れればオリジナルグッズとして販売が可能です。自店舗に制作できる環境がなくても、OEM専門の会社に外注すれば製造することができます。

他にもECとは少し異なりますが、自宅で店舗の味を楽しんでもらう方法としてテイクアウトやデリバリーも考えられます。コロナの発生によってテイクアウトやデリバリーを始めた飲食店は増えました。現状の設備と人員を活かして始められるので、コストやリスクを抑えながら売上アップを目指すことができます。

このようにECで飲食店が販売できるものは、さまざまあります。EC化は決して不可能なことではありません。

しかし、このEC化ですが近年注目されているとはいえ本当に飲食業界で拡大しているのでしょうか?次にデータを見ながら飲食業界のEC事情について解説します。

飲食店とEC市場

飲食店のEC化は、現状ではあまり進んでいません。経済産業省の調査によると、ここ数年で市場規模は拡大しながらも、EC化率は4%未満。他業界と見比べてみてもかなり低い数値を記録しています。

引用:「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」経済産業省より

しかし、少しずつではありますがEC化率は増加の傾向を見せています。今後の動向に注目したいところですが、EC化率が低い=拡大の余地があると前向きに捉えることもできます。もしかしたら今が飲食店にとってEC化の黎明期と言えるときなのかもしれません。

ECに取り組む店舗が増えているということは、飲食店にとってメリットがある魅力的な手段だから、ともいえます。次章でECには具体的にどのようなメリットがあるのかをまとめます。

飲食店がECを始める3つの理由・注意点

ECは飲食店にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか?飲食店がECに取り組む3つの理由と注意点について解説します。

飲食店がECを始める理由とは

飲食店がECを始める主な理由は下記の3つです。

1.店舗以外の売上が得られる

飲食店がECを始めれば、今まで通りの通常営業をしながら店舗以外からの売上が見込めます。販売チャネルの拡大は、実店舗の営業が停止したときにECで売上を確保できるなど、倒産リスクの軽減にも繋がります。

2.遠方の顧客も購入可能

実店舗だけで営業している場合、来店できる人のみが顧客となりますが、ECの場合は日本全国全ての人がターゲットです。商圏が大幅に広がるため、売上アップの可能性も高まります。

3.店舗の認知度アップ

ECは店舗の認知度を高める可能性も秘めています。たとえば、ECの商品を気に入ってもらえれば「実際にお店で食べてみたい」と店舗の来店に繋がるかもしれません。ECは実店舗の営業だけでは出会えなかった顧客層との出会いを生み出すのです。

ECで気をつけたい注意点

逆にECで注意したい点は下記の3つです。

1.コストがかかる

ECを始める方法はいくつかありますが、どの方法を選ぶにしても費用は発生します。無料で登録できるショッピングモールやショッピングカートのサービスもありますが、梱包用の容器や箱など備品の購入、専任者配置による人件費増などさまざまな面でコストが発生することは避けられません。

EC運営を検討する中で何が必要でどのぐらいのコストがかかるのか、予め計算しておくことが大切です。

2.EC担当が必要(マンパワーの拡充)

ECの運営は、コンテンツやお知らせなどの更新、顧客メッセージの対応、商品の梱包・発送など業務量が非常に多いです。そのため、デリバリーやテイクアウトのように店舗の既存メンバーのまま運営するのは困難です。

片手間でEC運営が成功できるほど甘い世界ではありません。できれば専任の担当者を置いたり業務効率化によって労働時間を削減するなどして、スタッフがECに専念できる環境を整えることが重要です。

3.集客が難しい

ECサイトを立ち上げたからといってすぐに注文が入るわけではありません。ECの運営で大切なことは、認知してもらうこと。そのためにはSNSを活用したり、状況次第では広告の運用も必要になってきます。

ECを始めるまでの流れと必要なこと

ここまでECの基礎的な知識やメリット・デメリットなどをお伝えしてきました。さらに深くイメージを掴んでいただくために、ECをスタートするまでの具体的な流れを解説します。

各工程で必要なものにも触れていますので、ぜひご参考ください。

1.目的やコンセプトを明確にする

まず最初にEC化の目的、そして商品のコンセプトをしっかりと練ること。EC化によって実現したいことは何なのか、それを達成するための商品がどのようなものなのかを明確にしておきましょう。

目的やコンセプトが曖昧だと一貫性や統一感に欠けて、顧客に魅力が伝わりづらくなり、売上に繋がりません。また、このプロジェクト全体の判断基準にもなりますので最初の段階で綿密に考えておくことが重要です。

2.必要な許可を申請・取得

飲食店がECをスタートするためにはいくつかの許可や申請が必要です。

まずは「食品衛生責任者(場合によっては食品衛生管理者)」の資格と「食品衛生法に基づく営業許可」を取得しましょう。飲食店を既に営業している場合、食品衛生責任者は既に取得しているはずなので、改めて申請する必要はありません。

ただ、食品衛生法に基づく営業許可に関しては、場合によって必要となります。


「おつまみを缶詰にして販売しよう!」
→かん詰又はびん詰食品製造業の営業許可が必要

「ギフト用にお菓子をパックして販売しよう!」
→菓子製造業の営業許可が必要

また、EC用に食品を製造する場合、規定で定められた店舗環境を整備しなければならず、既存の設備のままでは許可が下りない場合もあります。さらに、食品表示法に則った食品ラベルも必要となります。

このようにさまざまな細かい決まりがあるため、ECの計画を立てる際に管轄の保健所に相談することをおすすめします。保健所に相談すれば、どのような許可や設備環境が必要なのかを教えてくれるため、安心して準備に臨むことができます。

食品ラベルについては消費者庁のガイドブックをご参考ください。

▼消費者庁パンフレット
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/pamphlets/

3.ECサイト制作

飲食店がECを始める方法として、代表的なものを2つ紹介します。

一つは、独自のECサイトを構築する方法です。ECサイトには「ショッピングカート機能」が必要です。ショッピングカートとは、顧客が商品を購入する際に会計の自動集計や決済、注文受付メールの配信などを行ってくれるシステムです。

ショッピングカートを提供している会社は多々ありますが、ショッピングカート機能だけを提供しているわけでありません。サイトのデザイン設定や商品登録などもできるため、ショッピングカート選び=サイト選びでもあります。

そのため、各サービス毎にデザインの自由度や運用時の利便性をチェックしておきましょう。ECのコンサルタントやマーケティング会社では無料相談を請け負っているところも多々あるので、相談してみるとショッピングカートについてより理解できるでしょう。

ショッピングカートを利用すると、月額で料金が発生します。デザインを制作会社に依頼した場合はコストがさらに発生したり、集客のためにはSNSの活用やSEO対策が必須となる点も注意しなければなりません。

もう一つの方法は、ショッピングモールへの出店です。Amazonや楽天市場など大手ショッピングモールは元々ユーザーが多く、集客しやすいのが利点です。店舗ページはテンプレートがあるため操作性に優れていますが、デザインの自由度は狭まります。さらに、登録料や販売手数料が発生することや、上位表示のために有料オプションが必要などのデメリットもあります。

どの方法が自店舗に合っているか、予算や運用方法などを念頭に置いて判断していきましょう。

4.EC用の設備やアイテムを準備

ECに必要な設備やアイテムは商材によって異なります。たとえば食品を販売するのであれば、真空バック専用の機械や、冷凍保存用の冷凍庫、梱包用の袋、宅配用の箱などさまざまです。

必要なものをリスト化し、いつまでに用意すればよいのかをチェックしながら進めれば漏れなく準備することができます。

設備に関しては、保健所の指示通りに準備しなければなりません。工事が必要となれば日数もかかります。施工会社への相談を早めにしておくようにしましょう。

5.宣伝・告知する

既述した通り、ECサイトはまず認知をしてもらうことが非常に重要です。ECサイトは実店舗のように実態がないため、顧客との偶発的な出会いが発生しません。そのため、積極的に情報発信をしていかなければなりません。

宣伝・告知のためには何を使って、いつ、どのように宣伝・告知していくのかも予め考えておきましょう。効果的な宣伝方法に関しては次章で紹介します。

ECを成功させるための運営3つのヒント

ECの運営についてだいぶイメージを掴んでいただけたのではないでしょうか。大まかな流れもご理解いただいたところで、ECを成功させるために大切なヒントを3つお伝えします。

ポイント①各シーンに合った商品を考える

顧客が飲食店を使うのはどのようなときでしょうか。会社の接待や大事な人との記念日、送別会や友人との会食などさまざまなシーンが想定されます。飲食店側としては、これらの各シーンに合わせたサービスやメニューを考え、提供していくはずです。

ECサイトも同じです。顧客にどのようなニーズがあるのか、さまざまなシーンを想定してみましょう。そうすることで、ニーズを満たす商品を生み出しやすくなります。

例)
・平日、仕事から帰ったあとすぐに食べられるもの
・ホームパーティでワインに合わせられる一品
・お祝いのギフトに喜んでもらえるもの
etc

顧客のニーズを満たす商品は購入に繋がる可能性が高いです。さらに季節ごとのイベントも視野に入れると、ニーズを満たすだけでなく商品のバリエーションも増やすことができます。

ポイント②お店の味・工夫を伝えて来店に繋げる

ECサイトで食品を販売した場合、顧客の元には冷凍などパックされた状態で届きます。顧客はその商品を加熱したり、お皿に自分で盛り付けて食べます。

その際にお店の味に少しでも近い状態で楽しんでもらえるよう加熱の方法や盛り付けのポイントなどを伝えるようにしましょう。味付けや食材のこだわりなどもパンフレットで伝えられれば、顧客はよりその料理を美味しく楽しむことができます。

味の美味しさはもちろん、お店の魅力が伝われば「今度は直接お店で食べてみたい」と来店に繋げられる可能性も高まります。

ポイント③顧客情報を活かして宣伝告知

もし、今まで来店した顧客情報を蓄積しているのなら、必ずDMなどでお知らせしましょう。来店経験のある顧客は興味を持ってくれる感度が高く、新規顧客よりも集客に繋がりやすい層です。

そのとき、予約台帳システムがあればより効率的に多くの顧客への宣伝が可能です。1通のメールを作成すれば、多くの顧客に自動配信ができます。

さらに、ターゲットを絞った効果的なメールを送ることもできます。例えば、来店時の用途が「記念日のお祝い」という顧客に限定してお祝い用の商品案内メールを送信する、ということも可能です。

予約台帳システムは多くのサービスで月額料金が発生しますが、業務効率化であったり、販売戦略にも役立てることができるので検討してみることをおすすめします。

リピートしてもらうための顧客管理を

顧客管理は、ECでも飲食店でも重要な業務のひとつです。

近年では、顧客管理はただの管理に止まらず、顧客との関係性を良好にすることで双方向により高い価値を生み出していくための活動全般を指すようになりました。これを「CRM(Customer Relationship Management)」ともいいます。

今や飲食店にしてもECサイトにしても数多くの店舗が実在し、顧客の選択肢が多い状況です。その中でいかに繋がっていけるかという厳しい競争を勝ち抜くためには、美味しい料理、品質の高い商品を提供するだけでは足りません。顧客との良好な関係性も重要になってきます。

人それぞれ好みやライフスタイルがあり、各顧客に適した商品やサービスを提供していけばリピーターになってくれる可能性は高まります。その形を実現するためには、顧客情報の管理・蓄積は必須といえるでしょう。

顧客管理(CRM)についてより詳しく知りたい方は、「飲食店の顧客管理(CRM)とは?システム導入のメリットまで解説」を併せてご覧ください。

飲食店のEC成功事例

最後に、ECの運営に成功した飲食店の事例を紹介します。

事例 水たき料亭 博多華味鳥 | 蓄積した顧客情報にダイレクトメールを送信して通販への誘導に成功

概要

水たき料亭 博多華味鳥は福岡を拠点とし、幅広いジャンルの飲食業態を運営しているレストランチェーンです。会社の接待やファミリー層の食事などさまざまな用途で活用され、親しまれています。

博多華味鳥では2015年から予約台帳システムのトレタを導入。予約受付の業務負担削減や、店舗間で顧客情報を共有するのが目的でした。

トレタで予約を受付すると、顧客は連絡先としてメールアドレスを登録します。博多華味鳥はそのアドレスに通販のお知らせなどをダイレクトメールとして送信しています。

その結果、今まで店舗のみの利用だった顧客が通販を利用するようになったのです。

丁寧な接客が魅力の同店ですが、予約の受付時間を削減できたことで店舗でのホスピタリティもさらに向上したとのこと。満席時には他店舗へ予約客を送客するという試みにも成功しています。

予約台帳システムの導入によって、実店舗とEC共によいシナジーを生み出したという好事例です。

課題
・予約管理を効率化したい
・店舗間で顧客情報を共有したい

 何を行ったか?
・予約台帳システム「トレタ」を導入
・24時間予約受付可能
・顧客のメールアドレスに通販の案内を送信
・満席時に空いている他店舗へ案内
・リピートしてくれている顧客に「いつもありがとうございます」と声がけ
・店舗間で来店回数やアレルギーなどの顧客情報を共有してサービスに活用

成果
・予約業務の負担が軽減し、接客がより丁寧に
・DM送信により、通販顧客の増加
・他店舗への予約客を送客することで稼働率アップ

詳細はこちら
https://toreta.in/case/2021-10-04/2566/

費用を抑えてECを始めるために補助金を活用しよう

ECの気をつけたい点でもお伝えした通り、サイトの立ち上げや運営には高いコストが発生します。その点で躊躇して踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

「コストを抑えられるならやってみたい!」という方なら、補助金の活用をおすすめします。

新型コロナの発生以降、国や地方公共団体は経営難で苦しむ事業者をサポートするためにさまざまな給付金や補助金などを発布しています。

その中でも「小規模持続化補助金」や「IT導入補助金」などWEB関連の製作費やデジタルツールの導入にかかる経費などを一部負担してくれる補助金も登場しました。

上限や期限、担当部署などはその補助金によって変わるため、事前に情報収集が必要となりますが、数十円から数億円規模のものまであるため、上手に活用しましょう。

補助金についてさらに詳しく知りたい方は「飲食店経営に使える給付金・補助金・助成金をわかりやすく解説」を併せてご覧ください。

EC担当を効率的に採用するために大切な採用活動

ECの運営は、業務量が多いだけでなく、一定のITリテラシーが必要です。そのため専任の授業員を担当としておくのが望ましい形となります。

既存の従業員に学習してもらい、ゼロから育てていく方法も考えられますが、勤務時間や業務量が多い飲食店だと難しいでしょう。

そうなるとやはり採用活動で新しい人を採用していく方が効率的といえます。

採用活動は求人媒体などを活用すれば大きなコストが発生します。しかし、知人の紹介やSNSの活用など無料でできる部分もあります。

「人がいないからECなんてできない」とネガティブに考えるのではなく、まずはできることを考えて、実践していくことが今後の道を切り開いていくことにも繋がるでしょう。

効率的な採用活動について詳しく知りたい方は「飲食店の採用コスト削減方法2選|離職率を下げるポイントも解説」を併せてご覧ください。

まとめ

今回は飲食店がECを始めるために必要なことと、成功するためのヒントをお伝えしました。以下に重要なポイントをまとめます。

・飲食店でも料理や調味料などECで販売できる商材は多々ある
・EC化率は低いものの発展していく可能性はある
・ECのメリットは販売チャネルや商圏が拡大でき、店舗以外の売上アップに期待できること
・ECのデメリットは、コストやマンパワーが発生し、集客も困難という点
・目的やコンセプトを明確にして顧客のニーズを満たす商品造りを
・必要な設備や許可については保健所に相談する
・認知度を高めるための工夫が必要
・顧客情報を集積しておけばECにも活用できる

ECは飲食店にとって売上確保の対策として有効的な手段のひとつです。ただ、初めにもお伝えした通り、成功までの道のりは簡単ではありません。

ニーズを満たす商品作り、顧客情報を活用した効果的な宣伝告知など、常に工夫が必要です。またコストや業務量の増加などのデメリット面も十分に考慮した上でECをスタートするかどうか判断していきましょう。